・・・砂糖は血液を酸化させる。砂糖は人間を神経質にする。実に砂糖の害悪を強調した。一方、勤労動員されたすべての少年少女が、何よりほしがったのは甘いものだった。肉体をこきつかわれた疲れを、せめて甘いものでいやしたくて、「上品」だった筈の女学生たちは・・・ 宮本百合子 「砂糖・健忘症」
・・・ 第二次大戦、ファシズムの惨禍を、日本の戦時的日常の現実を、通じて生死しながら、精神では大戦前のレジスタンスを知らないフランス文学に国内亡命をしていた人々の矛盾は、おそらくその人々に自覚されているよりも激しく、こんにち日本の文学に国内亡・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ 然しながら、社会の機構が生み出している複雑な利害の分裂、悪徳、悲惨、戦争の惨禍などを、農民の素朴な信仰心で根絶しうるものでもないし、又そのような現実生活を、あるとおりの社会の中で実現し得るものでもない。トルストイが、彼の全精力の卓抜さ・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・ なほ子は、灯のつき始めた山下辺、池の端の景色などを曇ったタクシーの窓から、それでも都会らしく感じて眺めた。 植木屋が入ったと見え、駒込の家の玄関傍に、始めて見る下草の植込みが拵えてあった。薄すり紫がかった桃色の細かい花が、繊い葉の・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・第一次大戦の惨禍は生きているものに、平和を警告しつづける記念物として、ヴェルダンの廃市に一望果ない戦死者墓地となってのこっていた。パリの華麗なシャン・ゼ・リゼのつき当りの凱旋門の中に、夜毎兵士に守られて燃えつづけていた戦死者記念常夜燈に、平・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・その雁金の存在と醤油製造、乾物製造についての発明の過程や、久内の父である山下博士の雁金に対する学閥を利用しての資本主義的悪策など、それらがわたしたちの現実の見かたから批判すれば、リアリティーをもって描かれていないと批評したところで、作者横光・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・年齢と経済力とに守られて、若い幾多の才能を殺した戦争の恐怖からある程度遠のいて暮せたこの作家が、それらの恐怖、それらの惨禍、それらの窮乏にかかわりない世界で、かかわりない人生断面をとり扱った作品が、ともかく日本で治安維持法が解かれた直後のジ・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・戦争の惨禍にさらされた地球のすべての国の人民は、人民こそ、戦争の犠牲であることを、まざまざと知っている。それ故に人民こそ、世界の人民の平和のために努力し奮闘するに価する事実を知って行動しているのである。十数億の人々が平和のために立っている。・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・愛が破壊されたということで、子さんは最もはげしく戦争の惨禍をうけた婦人の一人である。 香織さんの霊が不滅であると信じずにいられない思い。命日には同じ思いの人々が集って涙をしぼる物語に心を休めているにしろ、その嘆きの底に「あれは一体、誰ゆ・・・ 宮本百合子 「その願いを現実に」
・・・ビュスマルチネアメリカのドライサア、アプトン・シンクレア、ルイスその他の作家たちと共に心から平和を欲し、戦争の原因を究明しその社会的原因をそれぞれの国においてより少くし、またはとりのぞくことで、戦争の惨禍を人類からなくしようという情熱で結び・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
出典:青空文庫