・・・まさか比翼塚でも二つの死骸を一つの棺に入れるわけでも無いから、そんな事はどうでもいいのであるが、併しこの歌は痴情をよく現わしておると同時に、棺の窮屈なものであるという事も現わしておる。斯んな歌になって見ると、棺の窮屈なのも却て趣味が無いでは・・・ 正岡子規 「死後」
・・・市区改正はどれだけ捗取ったか、市街鉄道は架空蓄電式になったか、それとも空気圧搾式になったかしらッ。中央鉄道は聯絡したかしらッ。支那問題はどうなったろう。藩閥は最う破れたかしらッ。元老も大分死んでしまったろう。自分が死ぬる時は星の全盛時代であ・・・ 正岡子規 「墓」
・・・その死骸を営舎までもって帰るように。があ。引き揚げっ。」「かしこまりました。」強い兵曹長はその死骸を提げ、烏の大尉はじぶんの杜の方に飛びはじめ十八隻はしたがいました。 杜に帰って烏の駆逐艦は、みなほうほう白い息をはきました。「け・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・榊山氏の文章は虚無的な色調の上に攪乱された神経と、破れて鋭い良心の破片の閃きとで或る種の市街戦の行われている国際都市の或る立場の人々としての現実を反映している。けれども、これらの文章の大体は、私たちが夜中にも立ち出て見送った兵士たちの生活と・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・「エエ、わたしゃ人間の死骸と蛇と女郎ぐもとくさった柿がすき」「そんないやらしい事ばっかり云わないもんだよ、私は段々お前がこわくなって行く。逃げ出したいと思ってるだけど私はどうしたものか手足を思う様に動かす事が出来ない。私しゃ心から御・・・ 宮本百合子 「お女郎蜘蛛」
・・・戸塚へも近いし。市外はおやめです。夜などの出入りに淋しくて困るから。 この手紙はいろいろ盛り合わせになりました。 お体の様子は又くわしくお知らせ下さい。 附録、 千葉県の保田に一ヵ年契約で月六円の家があり、いねちゃんの子供らのた・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 壁新聞発行所が主催で、レーニングラード市外の集団農場見学に出かけた記事がある。工業化債権に、スモーリヌイの勤務者が何ルーブル応募したとかいう報告が書かれている。―― 壁新聞は、СССРじゅう至るところの役所、工場の職場、学校で・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・日曜は十一時頃から教会に行き、昼餐は料理店ですませて市外の公園にゴルフをしに行ったり夫婦で夕暮まで郊外の野道を植物採集に逍遙する。 家に帰って空腹に美味な晩食をとり、湯を浴び、熟睡して、更に新鮮な月曜日を迎えるのです。 勿論、右のよ・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ 大家の、虎屋と云う米屋が、家賃をむさぼることで近所で有名であると云う噂が自分を恐れさせた。出来るなら、其那面倒のない、其那無気味な大家の所有でない家に、仮令暫くでも棲みたく思ったのである。 市外ならば、其程見出すのが困難でもないら・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・ユリコ・チュージョーヨシ・ユアサ〕 一九三八年一月十二日〔市外小金井町一三九二 笹本寅宛 小石川より〕 御年賀をありがとう存じました。なかなか烈風吹きすさぶ新春です何卒御自愛下さい。宮本百合子 一九四・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
出典:青空文庫