・・・ 同じ三・一五の被告であった徳田球一、志賀義雄などの人々が、永い獄中生活にもかかわらず、一九四五年十月に解放されてからすぐ共産党の合法的活動に着手したことを思いあわせると、私たちは同じ共産党員といわれる人々の中に、非常な大きい差別がある・・・ 宮本百合子 「共産党とモラル」
・・・ それより前には、志賀暁子の嬰児遺棄致死罪についての公判記事が写真入りでのっており、又、解雇されたことを悲しんで省電に飛び込み自殺をしかけて片脚を失った少女の写真があった。新潟から身売娘が三十人一団となって上京した写真も目にのこっている・・・ 宮本百合子 「暮の街」
・・・などが世間の注目をひき、文章の古典復興物語調流行がきざしかけた頃、なにかの雑誌で、谷崎と志賀との文章を対比解剖し、二人の文章にあらわれている名詞、動詞の多少、形容詞、副詞の性質を分析し、志賀直哉を客観的描写の作家とし、谷崎潤一郎の最近書く物・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・ 志賀直哉が自著入りでやはり千円の本を出す、ときく心持は「まんじ」の場合よりも、もっと文学の圏内におこったことの感じであった。「暗夜行路」をくりかえしよんだ私たちの年代のものは、千円の本をつくる作家志賀直哉に対し、もし事実であるならば暗・・・ 宮本百合子 「豪華版」
・・・スキーで有名な志賀高原へ一昨日行きました。新しいドライヴ・ウエイを二十分ばかりのぼると杉、松、栗、柏などの見事な喬木の森がつきて白樺、つつじ、笹などの高原植物になります。石ころ道の旧道を、冬ごもりの仕度に竹、木材、柴など背負い、馬につんだ農・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・実に小説が読みたい。志賀直哉全集は大きい活字ですから今に読み始めるにはいいけれど、心持とはあまり遠くて。今はカロッサの「医師ギオン」を読もうと思います。一九三九年の写真では、カロッサは猫のようなものを手に抱いて、一寸下目になって額に横じわを・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・けれどもこの経験は、日本の社会の現実認識の方法と文学評価が、全体として志賀直哉の文学を卒業した、という事実を語ることでないのは明らかである。「アンナ・カレーニナ」の悲劇がほんとうに卒業された文学になった、ということは、その社会に新しい人間性・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・の前にある近代古典と云うべき作品の多くはこれらの時期に書かれたものであるし、古典的な権威として今日或る意味で価値ある文学上の存在をつづけている作家たち、例えば島崎藤村、徳田秋声、谷崎潤一郎、永井荷風、志賀直哉、武者小路実篤等は、いずれもこの・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・というものが近代日本文学にあっては、現在志賀直哉氏の文学にその完成を示しているところの純粋小説であるとし、日本に於てはプロレタリア文学の理論が、「文学における思想の優位を主張」する時代になってはじめて「私」と社会との対立が問題となって西欧の・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・のなかで、著者はこの問題において、志賀直哉氏の言葉と横光利一氏の言葉を何と適切に対比して、批評していることだろう。 志賀直哉氏は「テーマがあってもモチーフが自分の中に起ってくれなけりゃ書けない」という態度である。横光利一氏はそれに対して・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
出典:青空文庫