・・・ 現実は批判する 志賀直哉氏の昔の小説に「范の犯罪」という題の作品がある。これは范という支那の剣つかいの芸人が、過って妻を芸の間で殺し、過失と判定されるのであるが、妻を嫉妬し、憎悪が内心に潜んでいた自覚から、法・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・「大衆の批判というものがどんなものか、我国の場合で考えても、志賀直哉と吉川英治を国民大衆の討議にかければ、後者が選ばれること論をまたない」と。 小原壮助が、社会機構や生活感情のすべての、まるでちがう「我国の場合」を躊躇なく例としてひいて・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・従来の文学的領野に於ては、依然として志賀直哉が主観的なリアリズムの完成をもって一つの典型をなしており、新しい作家たちが若しその道へ進むとして、志賀直哉を凌駕する希望というものは抱きにくい状態であったし、かつてバーナアド・ショウやゴルスワージ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・及び芭蕉の諸作や志賀直哉氏の一二の作に於けるが如く、またニイチェの「ツァラツストラ」に於けるが如し。此の故に一つの批評にして、もしその批評が深き洞察と認識とを以ってわれわれを教養するならば、それは作物のみとは限らず批評それ自身作物となって高・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・ 食事をしながら、漱石は志賀直哉君の噂をした。確かそのころ、漱石は志賀君に『朝日新聞』へ続きものを書くことを頼んだのであったが、志賀君は、気が進まなかったのだったか、あるいは取りかかってみて思うように行かなかったのだったか、とにかくそれ・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫