・・・大切りにナポレオンがその将士を招集して勲章を授ける式場の光景はさすがにレビューの名に恥じない美しいものであった。 ムーラン・ルージュはこれと同じようでも、どこかもう少し露骨で刺戟の強いものであった。完全に裸体で豊満な肉体をもった黒髪の女・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・かく説明する僧侶の音声は如何によく過去の時代の壮麗なる式場の光景を眼前に髣髴たらしめるであろうか。 自分は厳かなる唐獅子の壁画に添うて、幾個となく並べられた古い経机を見ると共に、金襴の袈裟をかがやかす僧侶の列をありありと目に浮べる。拝殿・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・ 式場は、教会の広庭に、大きな曲馬用の天幕を張って、テニスコートなどもそのまま中に取り込んでいたようでした。とてもその人数の入るような広間は、恐らくニュウファウンドランド全島にもなかったでしょう。 もう気の早い信徒たちが二百人ぐらい・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・夜半青山の御大葬式場から退出しての帰途、その噂をきいて「予半信半疑す」と日記にかかれているそうである。つづいて、鴎外は乃木夫妻の納棺式に臨み、十八日の葬式にも列った。同日の日記に「興津彌五右衛門を艸して中央公論に寄す」とあって、乃木夫妻の死・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・もう一枚は閲兵式場の王女エリザベスの姿である。こちらの方は『ニュース・ウィーク』の投書欄にのっている。テキサスのトム・エフ・マンデンという人が七月十八日の『ニュース・ウィーク』にのったこの閲兵式の写真について、手紙をよこしているのだった。ト・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・湯川夫人の日本振袖の姿も、ノーベル賞授賞の式場に異国情緒を添えた。 それぞれの国の民族が婦人や子供、としより連まで固有の服装に身をかざって、その土地伝統の祭りを祝うような日の光景は、はた目にもおもしろく愉しいものだ。けれども、その美・・・ 宮本百合子 「この三つのことば」
・・・ 柳やの女中 薄馬鹿で色情狂、 甚兵衛の家に肴をとどけて来て、かえりになかなか柳やへ戻らず。女房丁度雨がふり出したので傘をもって迎いに来る。行き違いになったのだろうと云ってかえる。その間に女は、線路のどこかで、人・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ 劇場は上演を通して観衆の、オブローモフ主義、色情狂、悲観主義に対して闘おうとする意志を強める役に立つような仕事をやらなければならない。」 ソヴェトは劇場の数でベルリンやニューヨークより劣っているとしても、観衆の質は全然違う。ソヴェ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・告別式場の隅に佇んで、浄げな柩の方を猶も見守っていた時、久米さんが見え、二言三言立ちながら話した。 簡単な言葉であったが、私はその時今までのごたごたした心の拘りをすらりと抜け、自分がまともな心持で久米さんに物を云い、その顔を見たのを感じ・・・ 宮本百合子 「田端の坂」
・・・ 警察の裏にあるコンクリートの建物の中の一室で、〔十二字伏字〕布団を敷き、〔十三字伏字〕毛布を〔四字伏字〕かけ、一人の色情狂を混えて三人の女が寝ていた。五時になると起き出すのであったが、〔七字伏字〕向いあった側に〔二字伏字〕、そこは男ば・・・ 宮本百合子 「日記」
出典:青空文庫