・・・木の仕切りの中へ入りさえしなければ勝手に見なさってええ」 私共は顔を見合わせ、当惑して笑い合った。今度はYが訊く。「勝手に拝見してわかりますか」「――わたしはな、もう年よりで病気だから、説明が出来ませんじゃ、ここが苦しいから――・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・襖をあけた途端、その中につみ重ねてある雑誌類の上を渡って棚の仕切りの間に消えかかっている鼠の尻尾の先が見えた。「蝋燭! 蝋燭!」 私は、せっかちな声を出して、その小さい灯かげを戸棚の奥へさしいれて見て、「どう? 一寸! これ!」・・・ 宮本百合子 「鼠と鳩麦」
・・・ 脱いで、その仕切りを彼方側へ入ると、また別な上っぱりを着せられた。「ここからは、病気のある――軽い性病のある母親の棟です」 分娩室は今空だ。隅に大きい照明燈があっち向に立ってる。「母親の病室は同じですが……われわれは赤坊に・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
・・・客間はこの書斎の西側に続いているので、仕切りは引き戸になっていたと思うが、それは大抵あけ放してあって、一間のように続いていた。客間の方は畳敷で、書斎の板の間との間には一寸ぐらいの段がついていたはずである。この客間にも、壁のところには書棚が置・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫