・・・ジョバンニが見ている間その人はしきりに赤い旗をふっていましたが俄かに赤旗をおろしてうしろにかくすようにし青い旗を高く高くあげてまるでオーケストラの指揮者のように烈しく振りました。すると空中にざあっと雨のような音がして何かまっくらなものがいく・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・十七八人の男女の工場学校の生徒が六列に並んで、一人の生徒の指揮につれて手を動かし、足をあげ、時々、ホ! ホ! エハーッ! エハーッ!とかけ声をかけ、笑いながらやっている。広場の奥の大きい厩か納屋だったらしい建物があって・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・映画の手法、映画の持っている便利なテンポを全く無視する程腰を据えて沙漠とその沙漠をラクダに乗って横切って行く土民とイタリー人の指揮官の一隊を写している。監督の意図では沙漠というものの持つ広大な自然力と小さい人間との対照、並に小さい躯に盛られ・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・勘助は、緊張した声で指揮をした。「おれと、馬さんは現場へ行ぐ、すぐ消防の手配しろ」 冬にはつきものの北風がその夜も相当に吹いていた。なるほど、勇吉の家が、表側ぱっと異様に明るく、煙もにおう。気負って駆けつけ、「水だ、水だ、皆手を・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・古いボルシェビキで、国内戦のときは、一方の指揮者となって戦ったプロレタリア作家タラソフ・ロディオーノフが、本気な顔をしているのは当然だ。 次の研究会までに、各職場の文学委員が、各自何人の文学衝撃隊を組織出来るか報告することになって、作品・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
朝夕、早春らしい寒さのゆるみが感じられるようになってきた。 日本の気候は四季のうつりかわりが、こまやかであるから、冬がすぎて寒いながらも素足のたたみざわりがさわやかに思われて来たりする、微妙な季節の感覚がある。 文・・・ 宮本百合子 「故郷の話」
・・・昔を今に、今や昔という複雑さは、日本の四季がこまごまと文学に映っているとおり、文学の作品のなかに生きている。そこに、世界文学史のなかでみた現代日本文学のつきぬ意味あいがあるわけであろう。 同じような複雑さが、女の生活というものについて考・・・ 宮本百合子 「職業のふしぎ」
・・・ ジョージ・ギッシングは、非常に困難な一生を送り、芸術家としても決して華やかな生涯は経験しなかった人らしいが、彼の作物のあるものの裡には、殆ど東洋的な静謐さ、敏感な内気な愛が漲っている。四季に分けて書かれたヘンリー・ライクロフトの私・・・ 宮本百合子 「素朴な庭」
・・・四季に分けて書かれたヘンリー・ライクロフトの私記と云う随筆集の中に、彼の庭園についての好みを書いてあるところがある。彼の心持が私には自分のもののように思えた。「庭掘りに来た善良な男は、私の特殊な好みの理由を明かにするに迷った。私・・・ 宮本百合子 「素朴な庭」
・・・ 学問のある人も徳の高い僧侶もそれが乙女の持ってまいった四季毎に色の変る石を倉の奥等へしまい込んで置いたのが、祟ってじゃと気づくものがなかったのでその人は死なねばならぬ様になったのじゃと申す事での。王 面白い話じゃ。 したがの・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫