・・・ このように、これ以上惨酷にはあり得ないと思うほど惨酷な目で日本の文化をながめたときでさえ、ともかくも目立って見える日本固有の詩形の中でも特に俳諧連句という独自なものの存在する事をこれらの毛唐人どもが知っていたかどうか、たとえそういう詩・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・冷静なる法の目から見て、死刑になった十二名ことごとく死刑の価値があったか、なかったか。僕は知らぬ。「一無辜を殺して天下を取るも為さず」で、その原因事情はいずれにもせよ、大審院の判決通り真に大逆の企があったとすれば、僕ははなはだ残念に思うもの・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ ――俺たちは、被告だが死刑囚じゃない、俺たちの刑の最大限度は二ヶ年だ。それもまだ決定されているんじゃない。よしんば死刑になるかも分らない犯罪にしても、判決の下るまでは、天災を口実として死刑にすることは、はなはだ以て怪しからん。――・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・此の際に在ては、徒らにコンマやピリオド、又は其の他の形にばかり拘泥していてはいけない、先ず根本たる詩想をよく呑み込んで、然る後、詩形を崩さずに翻訳するようにせなければならぬ。 実際自分がツルゲーネフを翻訳する時は、力めて其の詩想を忘れず・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
・・・うと、昔天竺に閼伽衛奴国という国があって、そこの王を和奴和奴王というた、この王もこの国の民も非常に犬を愛する風であったがその国に一人の男があって王の愛犬を殺すという騒ぎが起った、その罪でもってこの者は死刑に処せられたばかりでなく、次の世には・・・ 正岡子規 「犬」
・・・それならば、お七は死に臨んでも自分の罪を悪いと思わぬばかりでなく、いっそ自分のつけた火が江戸中に広がって、自分を死刑に宣告した裁判官と、自分を死刑に陥れた法律と、自分を死刑に行うべき執行人とを合せて焼き尽さなんだ事を残念に思うて居るのであろ・・・ 正岡子規 「恋」
・・・貴様らはみんな死刑になるぞ。その太い首をスポンと切られるぞ。首が太いからスポンとはいかない、シュッポォンと切られるぞ。」 あまがえるどもは緑色の手足をぶるぶるぶるっとけいれんさせました。そしてこそこそこそこそ、逃げるようにおもてに出てひ・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・ さて署長さんは縛られて、裁判にかかり死刑ということにきまりました。 いよいよ巨きな曲った刀で、首を落されるとき、署長さんは笑って云いました。「ああ、面白かった。おれはもう、毒もみのことときたら、全く夢中なんだ。いよいよこんどは・・・ 宮沢賢治 「毒もみのすきな署長さん」
・・・まさか死刑にはなりますまいが終身懲役だってそんないいもんじゃありませんよ。どうです。今のうち懺悔してやめてしまっては。」 拍手も笑声も起りました。私たちの方から若い背広の青年が立って行きました。「あの人は私は知ってますよ。ニュウヨウ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・彼は故郷自由の国アメリカ、黒人に対する私刑 オムスクから二時間ばかりのところに、すっかり新しい穀物輸送ステーションが出来ている。屋根からつららの下った貨車。そびえるエレバートルの下へ機関車にひかれて行く。何と新鮮なシベリア風景だ。・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
出典:青空文庫