・・・読者は物理学や数学の具体的な知識を何ももっていなくとも、適当な思考力をもってさえいればよいと思います」「科学の書物はどれほど通俗的であるにしても、小説と同じようなつもりで読んではならないのが当然です。」 一冊の「科学の学校」を読みながら・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・これ等はただ、その人の内奥にある人格的な天質がそれ自身で見出すべき道に暗示を与え、自身の判断を待つ場合、思考の内容を豊富にするという点にのみ価値を持っていると思います。 私は、過去に多くの人々が真愛に達し、輝きの自体と成ったのを知ってい・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・実の波に洗われながら働いている若い女性たち、日本の社会が、良人なしに子供をもった若い女をどんな眼で見て、その子をどう扱って来ているかということを痛いほど知っている女性たちがジイドの小説の世界から、その思考を自分たちの表現として借りたのは、ど・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・パックが二人のアテナ人の瞼にしぼりかけた魔法の草汁のききめは、二人の男たちの分別や嗜好さえも狂わせて、哀れなハーミヤとヘレナとは、そのためどんなに愚弄され、苦しみ、泣き、罵らなければならなかっただろう。大戯曲家シェクスピアは、大胆な喜劇的効・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・からはじまる続篇を貫いて志向されているのは、ストリップ・ショウ風ののたうちはないといえ、つまりは日本の社会の一つの時期に生きる人間、女の、意識の覚醒の課題であり、それは、とりも直さず個人と集団を貫くコンプレックスの発見とそこから解放されよう・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・ところがこんど制定される行政施行法によれば、すべて委員会と名のつくものは政府の統轄のもとにおかれなければならないことになる。政府にたいして独立の発言権をもてばこそ、たとえば労働委員会にしても勤労大衆の福祉のためになにかのプラスを加えることが・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・ 人間を描くには、「人間の外部にあらわれた行為だけでは人間でなく、内部の思考のみも人間でないなら、その外部と内部との中間に、最も重心を置かねばならぬのは、これは作家必然の態度であろう。けれども、その中間の重心に、自意識という介在物があっ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ そして田野に円舞して、笑いさざめき歌を歌う生命の活気もなければ、専念に思考を練って穿ちに穿って行く強度も無く、表情が、力の欠乏に生気を失って居ると全く同様の状態が内奥の魂にまで食い入って居ります。愛する者をして愛さしめよ! 良人と自己・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・十一歳で父に死別した後、病弱な神経質体質の少年であるジイドは、凡ての悪行為、悪思考と呼ばれているものに近づくまいとして戦々兢々として暮す三人の女にとりまかれ、芝居は棧敷でなければ観てはいけません、旅行は一等でなければしてはいけませんという境・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・ 嗜好 わたくしは支那料理が非常に好きです。日本料理も西洋料理も、おいしければ大好きですけれど、まずい西洋料理よりは、たいしておいしくなくとも日本料理の方を好みます。 魚類では、夏なら「あらい」にしてたべる・・・ 宮本百合子 「身辺打明けの記」
出典:青空文庫