・・・ヴォルフの対象への並々ならぬ愛として結果しているものの裏づけである主観の謙抑や隅々まで自覚され支配されている客観の力を考えると、今日私たちはそこに息するにいくらか楽な空気をかぐと共に、少なからぬ示唆をうける。あらゆる芸術の分野でごく少数の卓・・・ 宮本百合子 「ヴォルフの世界」
・・・原名の序文できわめて示唆に富んだ数言を述べている。「この書物を書く間に、私たちは之をどんな人たちに読んでもらうべきかについてかなり論じ合い、またわかり易くすることについて苦心しました。読者は物理学や数学の具体的な知識を何ももっていなくとも、・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・生活を自身の深い経験の一つとして過した月日であり、その間に外では、短歌の形で自分たちの生活の感情を表現しようとする意志が勤労階級の中から高まって来た月日であったと考えると、私にとってはまことに意味深い示唆が与えられます。この一年間の私たちの・・・ 宮本百合子 「歌集『集団行進』に寄せて」
・・・自然というものの感じかた、裸体の歴史性、モデルと思想との相互の関係などを語っている部分は深い示唆をもっている。 中年から以後、ミケルアンジェロの作品がつねに未完成にのこされた、それについてロマン・ロランでさえ個人的に性格の分裂という風に・・・ 宮本百合子 「現代の心をこめて」
・・・異った角度からいくつかの問題を示唆して「三度目の世帯」と島尾敏雄の「ちっぽけなアヴァンチュール」との対照、そこからひきおこされている批評の性格などがある。 批評の基準の確立ということは、一本の棒ですべての作品をくしざしにする意味でないこ・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・はどう見られているか、なかなか興味がふかい点である。 高木卓氏の「歴史小説の制約」は示唆にとんだ文章だと思った。歴史を扱った小説は「過去からとび出して現在に迄及ぶこと」すなわち「過去の現在への相応」があるべきものである点、及び歴史小説の・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・日本ペン倶楽部の組織が支持された心の過程の内には自然その流れも加っているのであったが、「しかし同会が日本ペン倶楽部として生れ、国際ペン倶楽部日本支部と名乗るに至らなかったことは微妙な国際関係の現状を示唆するものである。」 国内における文・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 私はこの事によって自分のもっと重大ないろいろな欠点を示唆されたように思いました。二 私は自分のイゴイズムと戦っています。イゴイズムそのものは絶滅は望まれないまでも、イゴイズムをして絶対に私の愛を濁さしめないことは、私の・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・短い描写が驚くべき豊富な人生を示唆する。 ところで自分はどうであろう。強調すべき点は気が済むまでも詳しく書こうとする。そのために空虚な語のはいって来ることには気づかない。従って多くを示唆する少ない語の代わりに、少なくを説明しようとする多・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・氏は示唆的な日本画の手法をもって、麦の収穫に忙がしい農村の光景を写した。その結果が何であるとしても、とにかく氏の描くところには感情がこもっている。画面の上に芸当として並べられた線や色彩ではなくして、氏の心に渦巻くものを画面にさらけ出そうとす・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫