・・・ これは貞永式目に出家の死罪を禁じてあるので、表は流罪として、実は竜ノ口で斬ろうという計画であった。 日蓮はこの危急に際しても自若としていた。彼の法華経のための殉教の気魄は最高潮に達していた。「幸なる哉、法華経のために身を捨てん・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ ちらと眼をくれ、『このような、死罪を言い渡されるような、理由は、ない。そこ退け、下賤の者。』応えは無かった。 理由は、おまえに覚えがある筈、そう言ってカリギュラ王は、戸口に姿を現わした。今朝おまえは、ドミチウスめを抱いて庭園を散歩・・・ 太宰治 「古典風」
・・・荒木をはじめとしてABC順にならべられた二十五名の名は、わたしたち日本の男女が、馬よりも安価な戦争資材として扱われなければならなかった過ぎし日のことをまざまざとおもいおこさせた。あの日の命令者は、人類の平和にたいする罪悪的命令者であったとい・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・ 明日の農村の希望は零細な耕地の整理と資材の問題の解決とともに耕作が益々機械化されてゆかなければならないことである。日本型トラクターの能率は馬耕の二倍、人耕の十二倍で、しかも反当りの費用は人耕の四円五十三銭に比べて僅か一円九十五銭ですむ・・・ 宮本百合子 「新しき大地」
・・・文化の最も大切な資材である紙は決してやすくなっていない。印刷費は却って上って来ている。憲法草案第二十一条には「国民はすべて研学の自由を保護せらるべきこと」とあるのである。 五百八十余万人の失業者、そのほかにかくされて深刻な社会問題となっ・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・モラトリアムによる学資の制限と住居、食糧、教育資材の欠乏は、小学生から大学生までをひっくるめた困難においている。各専門学校、大学などで学内自治の運動が起っているのは当然である。学生達は自分達の中から委員を選んで食糧の困難、宿舎の問題、資材難・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・ 形式の上で、自由にされた出版、自由にされた言論が、現実に自由に存在するためには資材がいる。出版の自由は、自由につかえる紙が土台である。紙が闇で、それは刻々に値上りし、紙のタヌキ御殿が出現して新聞を賑わす有様は、出版の自由がどんなに歪み・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
・・・みんなは、その復興がなぜこんなに進まないのかという原因について研究し、資本家のサボタージュや、生産資材の隠退蔵に重大な原因を発見した。対日理事会でも、この点はつよく指摘されている。国会で隠退蔵物資特別調査委員会が出来たことは、政府も権力をも・・・ 宮本百合子 「ほうき一本」
・・・、実際は全くインチキな施設と内容としか持たない工場でも、それが軍関係のものであって、徴用工と女子挺身隊とを、どっさり自分の工場に働かせているということにさえなれば、軍人の思惑がよくなって、資金の融通、資材の配給上少からず便利を得た。そのため・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・三斎公その時死罪を顧みずして帰参候は殊勝なりと仰せられ候て、助命遊ばされ候。伝兵衛はこの恩義を思候て、切腹いたし候。介錯は磯田十郎に候。久野は丹後の国において幽斎公に召し出され、田辺御籠城の時功ありて、新知百五十石賜わり候者に候。矢野又三郎・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
出典:青空文庫