-
・・・そういう風にして、何年ぶりかで図書館へゆくとき、いつも、そこに一人の司書の小堅い顔と黒い上っぱりのくくれた袖口とを思い出した。その人はいるかしら、と思って来て、待つ間に見まわすと、たがわずその司書は、もとのように司書の席にいるのを発見するの・・・
宮本百合子
「図書館」
-
・・・ 津崎の家では往生院を菩提所にしていたが、往生院は上のご由緒のあるお寺だというのではばかって、高琳寺を死所ときめたのである。五助が墓地にはいってみると、かねて介錯を頼んでおいた松野縫殿助が先に来て待っていた。五助は肩にかけた浅葱の嚢をお・・・
森鴎外
「阿部一族」