・・・昔の徳川時代の江戸町民は長い経験から割り出された賢明周到なる法令によって非常時に処すべき道を明確に指示され、そうしてこれに関する訓練を充分に積んでいたのであるが、西洋文明の輸入以来、市民は次第に赤ん坊同様になってしまったのである。考えるとお・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・昔の徳川時代の江戸町民は永い経験から割り出された賢明周到なる法令によって非常時に処すべき道を明確に指示され、そうしてこれに関する訓練を十分に積んでいたのであるが、西洋文明の輸入以来、市民は次第に赤ん坊同様になってしまったのである。考えると可・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・この解釈は間違っているかもしれないが、しかしいくらかこれを支持するような事実が他にも若干ある。 太陽や月の仰角を目測する場合に大抵高く見過ぎる。その結果として日出後または日没前の一、二時間には太陽が特別に早く動くような気がする。 山・・・ 寺田寅彦 「観点と距離」
・・・弟子がいったい何をしていいか見当のわからない場合に、一つのものになる見込みのあるテーマを授け、それに対する研究進行の径路を指示するのはそうだれにでも容易なことではないのであって、これだけでも一つの仕事の骨格に相当する。そうして得た結果がいっ・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・人間の科学に照らせばそれは明白に不可能な事であるが、しかし猫の精神の世界ではたしかにこれは死児の再生と言っても間違いではない。人間の精神の世界がN元のものとすれば、「記憶」というものの欠けている猫の世界は元のものと見られない事もない。 ・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・でなければコロイドに関する物理にはまだまだ未開の領土が多い事を指示するものであろう。 このほかにもまだいろいろあるであろうがあまりに予定の紙数を超過するからまずこのへんで筆をおく事とする。このはなはだ杜撰な空想的色彩の濃厚な漫筆が読者の・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・かくのごとき場合には公算論の指示する統計的方法を取る外なかるべきも、公算が変数の連続函数なりと断定し難く、また最大公算を有する場合が唯一ならざる場合には特別に慎重なる考慮を要すべし。 地震予報をして天気予報のごとき程度まで有効ならしむる・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・あの男の顔つき目つきはこの仮説を支持するに充分なもののように思われた。そうだとすれば実にかわいそうな父子である。円タクでも呼んで乗せて送ってやってもしかるべきであったという気がした。 しかし、また考えてみると、近ごろ新聞などでよく、電車・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・ 今もしここに宇宙のエントロピーの量を指示する時計があると想像する。この時計の示す時刻は何を示すかといえば、それは宇宙の老衰の程度を示すものである。エネルギーの全量は不変でも、それはこの時計の進むにつれて墜落し廃頽して行く。この時計ほど・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・日本における植物界の多様性はまたその包蔵する動物界の豊富の可能性を指示するかと思われる。 試みに反対の極端の例をあげてみると、あの厖大な南極大陸の上にすむ「陸棲動物」の中で最大なるものは何か、という人困らせの疑問に対する正しい解答は「そ・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
出典:青空文庫