・・・民法親族編第七百七十一条に、子カ婚姻ヲ為スニハ其家ニ在ル父母ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス但男ハ満三十年女ハ満二十五年ニ達シタル後ハ此限ニ在ラスとあり。婚姻は人間の大事なれば父母の同意即ち其許なくては叶わず、なれども父母の意見を以て・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・たとえば世に、商売工業の議論あり、物産製作の議論あり、華士族処分の議論あり、家産相続法の議論あり、宗旨の得失を論ずる者あり、教育の是非を議する者あり、学校設立の説を述る者あり、文字改革の議を発する者あり。 いずれも皆、国の文明のために重・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・今日の有様を以て事の本位と定め、これより進むものを積極となし、これより退くものを消極となし、余輩をしてその積極を望ましむれば期するところ左のごとし。 すなわち今の事態を維持して、門閥の妄想を払い、上士は下士に対して恰も格式りきみの長座を・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・就中親族編の如きは、古来日本に行われたる家族道徳の主義を根底より破壊して更らに新主義を注入し、然かも之を居家処世の実際に適用す可しと言う非常の大変化にして、所謂世道人心の革命とも見る可きものなるに、其民法の草案は発布前より早く流布して広く世・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・けだし走者は本基より第一基に向って走る場合においては単に進むべくしてあえて退くべからざる位置にあるをもって球のその身に触るるを待たずして除外となることかくのごとき者あり。第二基人第三基人の役目は攫者等より投げたる球を攫み走者の身に触れしめん・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・すると店にはうすぐろいとのさまがえるが、のっそりとすわって退くつそうにひとりでべろべろ舌を出して遊んでいましたが、みんなの来たのを見て途方もないいい声で云いました。「へい、いらっしゃい。みなさん。一寸おやすみなさい。」「なんですか。・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・ それですから、深い霧がこめて、空も山も向うの野原もなんにも見えず退くつな日は、稜のある石どもは、みんな、ベゴ石をからかって遊びました。「ベゴさん。今日は。おなかの痛いのは、なおったかい。」「ありがとう。僕は、おなかが痛くなかっ・・・ 宮沢賢治 「気のいい火山弾」
・・・未亡人の生活になげられたのは、明朗な社会的な協力というよりも、親族的な配慮であり、さもなければうけるのも苦しいというような異性の好意である場合が多い。若いしっかりした良人を失った女性たちは、こういう経験をとおしてだけでも、どんなに仕事の上で・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・明治文学の中期、樋口一葉や紅葉その他の作品に、「もとは、れっきとした士族」という言葉が不思議と思われずに使われている。この身分感は、こんにち肉体文学はじめ世相のいたるところにある斜陽族趣味にまで投影して来ているのである。 日本の大学、な・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・天照大神の物語は日本の古代社会には女酋長があったという事実を示しているとともに、その氏族の共同社会での女酋長の仕事の一つとして彼女は織りものをしたということが語られている。天照という女酋長が、出来上ることをたのしみにして織っていた機の上に弟・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
出典:青空文庫