・・・の或る作品などは表面個人主義的な現実からの逃避を示しながら、現在の火華の出るような階級対立の現実から自身、眼を外らし、同時に読者をも科学的な世界観から切り離してくる点において完全にファッシズムの一つの支柱としての役割を持っている。群司次郎正・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
・・・ が、しかし、この神秘主義こそ、ファッシズムがその文化を飾る重要な一つの支柱として求めるものである。 神秘主義は、その基礎条件として、現実の社会生活からの逃避を意味している。われわれがその中に闘いながら毎日生きている資本主義社会の矛・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・一八八一年三月一日、全く予告なく突発した事情の下に帝位に即かせられることになった酒飲みのアレキサンドル三世は、有名なポヴェドノスツェフと共に極端な反動的政治をはじめ、そのために従来ナロードニキの社会的支柱であったブルジョア自由主義者は甚しく・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・具体的に本間さんのところのお嬢さんたちは、目下食うために職業を求めておられないが、客観的にひろくこの世の中を見渡せば本間氏が主として男の側の負担としてあげられた一家の経済的支柱という役割は、特に昨今激しいテムポで婦人の肩にもその重みがうつっ・・・ 宮本百合子 「短い感想」
・・・、働いて一家の支柱となっている女性でさえ、「家の嫁」としてのしきたりと、生活の実情から浮きはなれた現在の制度――たとえば税のとられ方などとのあいだに板ばさみとなって奮闘しながら、女として教師としての人生へのいとおしみをもって生きている姿がま・・・ 宮本百合子 「「未亡人の手記」選後評」
・・・この任務の実現、即ち、ひとりヨーロッパの反動のみならず、更に又アジア反動の最強の支柱の粉砕は、ロシア・プロレタリアートを国際革命的プロレタリアートの前衛となすであろう」既にロシアの党は美事に、このことを示し得た。 今や、第二の革命と戦争・・・ 宮本百合子 「労働者農民の国家とブルジョア地主の国家」
・・・街燈が鉄の支柱の頂で燐を閃めかせ始める。ほんの一とき市民の胸を掠めるぼんやりした哀愁の夜が、高架鉄橋のホイッスラー風な橋桁の間から迫って来た。 そういう黄昏、一つの池がある。ふちの青草に横わって池を眺めると、水の上に白樺の影が青く白・・・ 宮本百合子 「わが五月」
・・・もうどこをさして往って見ようと云う所もないので、只已むに勝る位の考で、神仏の加護を念じながら、日ごとに市中を徘徊していた。 そのうち大阪に咳逆が流行して、木賃宿も咳をする人だらけになった。三月の初に宇平と文吉とが感染して、熱を出して寝た・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
元文三年十一月二十三日の事である。大阪で、船乗り業桂屋太郎兵衛というものを、木津川口で三日間さらした上、斬罪に処すると、高札に書いて立てられた。市中至る所太郎兵衛のうわさばかりしている中に、それを最も痛切に感ぜなくてはならぬ太郎兵衛の・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・だから市中に住んでいる人にこの景色を見せたいと思っても、見せるわけには行かなかった。 こういう雪景色と交錯して、二月の初め、立春の日の少し前あたりから、池の鯉が動きはじめ、小鳥がしきりに庭先へ来る。そういう季節が、紅葉と新緑とから最も距・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
出典:青空文庫