・・・「おけら共が派手な弁舌で時を得顔な時代思潮を説いているのを見ると」「流れに身をまかせて安きについているようにさえ思われた。」 梅雄はそれでひねくれてしまうのではなく、反動的な生き方をする人々を凡て軽蔑し、その点で姉である松下夫人をも人間・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・ 小学校を最優等でお千代ちゃんは卒業し、日比谷公園へ行って市長の褒美を貰った。その時、お千代ちゃんはやっぱり地味な紡績の元禄を着て海老茶袴をつけて出た。新聞が、それを質素でよいと褒めた。由子は、そうは思わなかった。いい着物をお千代ちゃん・・・ 宮本百合子 「毛の指環」
・・・ このたびの大統領選挙が世界の視聴を集めたのは、デューイとトルーマンとのたたかいにおいて、アメリカ民衆の民主的な意志と、世界の平和的善意、理性とがどう反映するか、そこが見ものであるからだった。重大さはそのことにあったにもかかわらず、日本・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・農民文学懇話会、大陸文学懇話会、生産文学、都会文学懇話会というものまでも、故小橋市長によってもくろまれた。芥川、池谷、千葉賞のように、故人となった文学者の記念のための文学賞ばかりか、農民文学には有馬賞というのがあり、中河与一氏の尽力によって・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・その当時、主として『新思潮』の同人たちが、歴史的題材の小説に赴いたことの心理的要因には第一次欧州大戦につれて擡頭した新しい社会と文学の動きに対して、従来の文学的地盤に立つ教養で育った新進作家たちが、一面の進歩性と他面の保守によって、題材を過・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・と、芸術に於ける民族的な特徴を広い偏見のない目で現実の中に見極めて形象化してゆくこと、及び芸術作品に描かれる人間性というものに就いての統一的な掘り下げ等を通じて、新しき時代に役立つヒューマニズムの文芸思潮の内容づけをしてゆくことであろうと思・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・と、自然主義が文芸思潮として移入した明治時代の日本の「要らない肥料が多すぎ」「近代市民社会は狭隘であった」中で自我を未だ自我の自覚として十分社会的に持ち得なかった日本の知識人が「自然主義を技法の上でだけ」摂取し、対象を我におかず「実生活」に・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 現代文学が、文芸思潮で動くことをやめ、心理で動いてゆくようになってから既に数年経った。その心理のうねりの間に文学の胚種は護られているのだけれど、文学の壮健な生い立ちのためには文学を導く心理そのものを時々はきびしく吟味してみるのがすべて・・・ 宮本百合子 「作品の主人公と心理の翳」
・・・文芸評論家としての自身の評価のよりどころ、評価の方法として、他の諸篇にふくまれた労作をなしとげている。文芸思潮史としてこの一巻をまとめることを念願したとあとがきに書かれているが、批評及び文芸思潮史の方法として、ここに示されている数歩は、日々・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・によって第一段の債鬼追っ払いをした時代であり、日本文学の動向に於てかえり見ると、これは明瞭な指導性をもつ文芸思潮というものが退潮して後、しかも今日では被うべくもない文化に対する統制が次第に現れようとする時であった。森田たま氏の「もめん随筆」・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
出典:青空文庫