・・・ 丘のうしろは、小さな湿地になっていました。そこではまっくろな泥が、あたたかに春の湯気を吐き、そのあちこちには青じろい水ばしょう、牛の舌の花が、ぼんやりならんで咲いていました。タネリは思わず、また藤蔓を吐いてしまって、勢よく湿地のへりを・・・ 宮沢賢治 「タネリはたしかにいちにち噛んでいたようだった」
・・・ 土神の棲んでいる所は小さな競馬場ぐらいある、冷たい湿地で苔やからくさやみじかい蘆などが生えていましたが又所々にはあざみやせいの低いひどくねじれた楊などもありました。 水がじめじめしてその表面にはあちこち赤い鉄の渋・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・その傍に、小さな小屋を立ててすんで居る鯉屋の裏には、鯉にやるさなぎのほしたのから、短かい陽炎が立ち、その周囲の湿地には、粗い苔が生えて、群れた蠅の子が、目にもとまらない程小さい体で、敏捷に彼方此方とび廻って居る。 △静かに、かなり念・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
・・・のほかに一九三九年の夏、長篇の第一部「湿地の焔」を脱稿したが、ドイツ軍にその印刷所を占領され、やっと原稿が救われた。この作品は一九四〇年ソヴェトで発表された彼女の第一作となった。この小説にはポーランドのファシスト的支配に抗するウクライナ農民・・・ 宮本百合子 「ワンダ・ワシレーフスカヤ」
出典:青空文庫