帝銀事件として、帝国銀行椎名町支店におこった全行員から小使一家までの毒殺事件は、意味のわからないほど惨酷な毒殺方法で、すべての人の心を寒くした。犯人の目星がついた、つかないと、推理小説家まで動員されてのさわぎのうちに、日は・・・ 宮本百合子 「目をあいて見る」
・・・スーダンの文化などもその視点から見られた。しかしその後の研究によれば、スーダンの民族の美しい衣服はアフリカ固有のものであってムハメッドの誕生よりも古い。またスーダンの国家の特有の組織はイスラムよりもはるか前からあり、ニグロ・アフリカの耕作や・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
・・・態度の美しさのほかに、なお一つ、戦いの深さによって人を見る視点があるからである。八 私は誤解を恐れる。そしてその恐れを愧じる。私はその恐れに打ち克たなくてはならない。 もとより誤解は不愉快である。できるならばそれを解きた・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・ここではまず第一の民衆に視点を置いて、その中にどういう思想が動いていたかを問題としよう。 応仁以後においては、土一揆や宗教一揆は明らかに政治運動化して来た。文明十七年の山城の国一揆、長享二年の加賀の一向一揆などはその著明な例である。これ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・しかし先生がある作品を叙述しそれへの視点を我々に説いて聞かせる時、我々の胸にはおのずからにして強い芸術への愛が湧きのぼらずにはいなかった。一言に言えば、先生は我々の内なる芸術への愛を煽り立てたのである。これはあの講義の事実的内容よりもはるか・・・ 和辻哲郎 「岡倉先生の思い出」
・・・この視点から見て、千年以前の我々の祖先の文化がいかに心理的な深さを獲得するかは、きわめて興味ある問題である。その成功を伴なった華やかな方面においても、また腐敗を伴なった暗黒な方面においても。―― これは確かに一つの視点である。それによっ・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・ 視点を製作にのみ限る時には、事情はやや異なって来る。この範囲でJは態度の純一を欠かない。彼は官能享楽にのみ価値を認めて、誠実にそれを徹底させる。製作においては決して嘘をつかない。彼の製作の趣味が低劣だという批評は倫理的立場からくるので・・・ 和辻哲郎 「転向」
・・・徳川時代にできあがった風俗作法のうちには、右のごとき視点からして初めて理解され得るものが少なからず存すると思う。 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫