・・・モーゼほどの鉄石の義心と、四十年の責任感とを持っているのならとにかく、私の心の高揚は、その日のお天気工合等に依って大いに支配されているような有様ですから、少しもあてになりません。大声で宣言しかけては狼狽しています。七月の末から雨がつづいて、・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ それでは大学入学の資格はどうしてきめるかとの問に対して、「偶然に支配されるような火の試練でなく、一体の成績によればいい。これは教師にはよく分るもので、もし分らなければ罪はやはり教師にある。教案が生徒を圧迫する度が少なければ少ないほ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・大抵のイズムはこの点において、実生活上の行為を直接に支配するために作られたる指南車というよりは、吾人の知識欲を充たすための統一函である。文章ではなくって字引である。 同時に多くのイズムは、零砕の類例が、比較的緻密な頭脳に濾過されて凝結し・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・大まかに云えば、イギリスが海を支配し、フランスが陸を支配したとも云い得るであろう。然るに十九世紀に入っては、ヨーロッパという一つの歴史的世界に於てドイツとフランスとが対立したが、更に進んで窮極する所、全世界的空間に於て、ドイツとイギリスとの・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・けられたる金を請取り之を日々の用度に費すのみにして、其金は自家の金か、借用したる金か、借用ならば如何ようにして誰れに借りたるや、返済の法は如何ようにするなど、其辺は一切夢中にして、夫妻同居、家の一半を支配する主婦の身にてありながら、自分の家・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・眼光紙背に徹せなくてはならない。ピエエル・オオビュルナンは得意の作の中にこう書いた事がある。「女の手紙の意味は読んで知れるものでは無い。推測しなくてはならない。たいていわざと言わずにあるところに、本意は潜んでいるものである。」 マドレエ・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・色気と野心、我輩を支配して居った所の色気と野心、それは何であるか。ちょっとすれちがいに通って女に顔を見られた時にさえ満面に紅を潮して一人情に堪なかったほどのあどけない色気も、一年一年と薄らいで遂に消え去ってしもうた。昔は一箇の美人が枕頭に座・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・それから博士は俄かに手を大きくひろげて「げにも、かの天にありて濛々たる星雲、地にありてはあいまいたるばけ物律、これはこれ宇宙を支配す。」と云いながらテーブルの上に飛びあがって腕を組み堅く口を結んできっとあたりを見まわしました。 学生・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・「イデェオロギーが情緒感覚の生活にまで泌みわたって、これを支配し変革する」ことがなければプロレタリア文学は真の芸術であり得ないという片上伸の主張とそのためのたたかいを著者は、同情と批判をもって跡づけている。 この初期の二つの評論にはっき・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・スタンダールは一人の人間は事件の局所しか目撃出来ないという現象にとらわれて、そこに文学の写実の意味をおく一種の間違いをおかした通り、ナポレオンについても彼が帝位につくに至った勢いについての評価は決して紙背に徹してはいません。 掛蒲団は「・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫