・・・たとえばピアノの鍵盤や、オストワルドの色見本は、言わばそういう方向への最初の試歩である。金相学上の顕微鏡写真帳も、そういうスケールを作るための素材の堆積であるとも言われよう、もし、あの複雑な模様を調和分析にかけた上で、これにさらに統計的分析・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・きょうから隣の空室へ判事試補マイヤー君が宿をとりました。法科のベルナー君や理科のデフレッガア君などは目下郷里へ帰ってたいへん静かであります。 長々と書いたもののいっこうつまらなくなりました。 パリから 私の宿・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・若い時代に大変苦心して大学教育をうけ、判事試補にまでなったのだが、当時ビスマークを首相として人民を圧迫していたウィルヘルム二世の官吏として人民に対することは、自分の良心にそむくことを知って、職をすて、改めて左官屋の仕事を学んだ。左官屋といっ・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・そこで判事試補の月給では妻子は養われないと、一図に思っていたのだろう。土地が土地なので、丁度今夜のような雪の夜が幾日も幾日も続く。宮沢はひとり部屋に閉じ籠って本を読んでいる。下女は壁一重隔てた隣の部屋で縫物をしている。宮沢が欠をする。下女が・・・ 森鴎外 「独身」
出典:青空文庫