・・・ と聞かれたとき、さあ、桜の園、三人姉妹なんか、どうでしょう、とつつましく答えることができるようだったら、いいねえ、としんみり答えたことでした。 太宰治 「正直ノオト」
・・・に集録してあるから読んでもらいたい。姉妹芸術としての俳諧連句については昭和六年三月以後雑誌「渋柿」に連載した拙著論文【「連句雑俎」】を参照されたい。現在の論文は、これと「二枚折り」になる性質のものである。・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ 十五 乙女心三人姉妹 川端康成の原著は読んだことはないが、この映画の話の筋はきわめて単純なもので、ちょっとした刃傷事件もあるが、そういう部分はむしろはなはだ不出来でありまた話の結末もいっこう収まりがついていない・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・たしか謡曲や仕舞も上手であったかと思う。若先生も典型的な温雅の紳士で、いつも優長な黒紋付姿を抱車の上に横たえていた。うちの女中などの尊敬の対象であったようである。その若先生が折々自分の我儘な願いに応じて「化学的手品」の薬品を調合してくれたり・・・ 寺田寅彦 「追憶の医師達」
・・・と、そこへ差出すと、爺さんは一度辞退してから、戴いて腹掛へ仕舞いこんだ。「お爺さんはいつも元気すね。」「なに、もう駄目でさ。今日もこの歯が一本ぐらぐらになってね、棕櫚縄を咬えるもんだから、稼業だから為方がないようなもんだけれど……。・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・道太の姉や従姉妹や姪や、そんな人たちが、次ぎ次ぎににK市から来て、山へ登ってきていたが、部屋が暑苦しいのと、事務所の人たちに迷惑をかけるのを恐れて、彼はK市で少しほっとしようと思って降りてきた。「何しろ七月はばかに忙しい月で、すっかり頭・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・二 モオパッサンの短篇小説 Les Surs Rondoli(ロンドリ姉妹の初めに旅行の不愉快な事が書いてある。「……転地ほど無益なものはない。汽車で明す夜といえば動揺する睡眠に身体も頭も散々な目に逢う。動いて行く箱・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・「ま一つじゃ。仕舞にレイモンが今まで誰も見た事のない遊びをやると云うて先ず試合の柵の中へ三十本の杭を植える。それに三十頭の名馬を繋ぐ。裸馬ではない鞍も置き鐙もつけ轡手綱の華奢さえ尽してじゃ。よいか。そしてその真中へ鎧、刀これも三十人分、・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・後を顧みてかの薄紫の貴女及びその妹の事とその門構付の家を想像し、前を見てこの貧困なるしかし正直なる二人の姉妹とその未来の楽園と予期しつつある格子戸作りを想像して、両者の差違を趣味あるようにも感ずる。また貧富の懸隔はかように色気なき物かとも感・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ 彼が仕舞時分に、ヘトヘトになった手で移した、セメントの樽から小さな木の箱が出た。「何だろう?」と彼はちょっと不審に思ったが、そんなものに構って居られなかった。彼はシャヴルで、セメン桝にセメントを量り込んだ。そして桝から舟へセメント・・・ 葉山嘉樹 「セメント樽の中の手紙」
出典:青空文庫