・・・前に示したる鉱山の歌のごときは調子ほぼととのいたり、されどこれほどにととのいたるは集中多く見るべからず、ましてこれより勝りたるはほとんどあるなし。書中乾胡蝶からになる蝶には大和魂を招きよすべきすべもあらじかし 結・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・この機会をもちまして私共一同にとくとお示しを得たいものであります。」大将「それはよろしい。どの勲章を見たいのだ。」特務曹長「一番大きなやつから。」大将「これが一番大きいじゃ。ロンテンプナルール勲章じゃ。」胸より最大なる勲章を外し・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・で示したニュアンスにとみ曲折におどろかない豊潤な資質は、その後の諸論集のなかでどのように展開されただろうかという問題である。 片上伸研究が「過渡期の道標」と題されたことは、示唆的である。著者は、芥川龍之介の敗北の究明とともに、小市民的土・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・かれは近隣のもの三人と同伴して、道すがら糸くずを拾った場所を示した。そして途中ただその不意の災難を語りつづけた。 その晩はブレオーテの村を駆けまわって、人ごとに一条を話したが、一人もかれを信ずるものにあわなかった。 その夜は終夜、か・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・そして反対に情調のある文芸というものが例で示してあったが、それが一々木村の感服しているものでなかった。中には木村が、立派な作者があんな物を書かなければ好いにと思ったものなんぞが挙げてあった。 一体書いてある事が、木村には善くは分からない・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・ネーには、このグロテスクな中に弱味を示したナポレオンの風貌は初めてであった。「陛下、そのヨーロッパを征服する奴は何者でございます?」「余だ、余だ」とナポレオンは片手を上げて冗談を示すと、階段の方へ歩き出した。 ネーは彼の後から、・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・群集の喝采は必ずしも作者の勝利を示しはしない。虚偽と阿諛に充ちた作品をさえ喜ぶ人々の喝采は、恐らく不愉快なものだろうと思う。 万人の胸を潤す物を作ることは我々の理想である。我々は端的に「人間」の心に迫って行かなくてはならぬ。しかしいまだ・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫