・・・もう私はその為ならば一週間でも泣けたのです。 すると俄かに私の右の肩が重くなりました。そして何だか暖いのです。びっくりして振りかえって見ましたらあの番人のおじいさんが心配そうに白い眉を寄せて私の肩に手を置いて立っているのです。その番人の・・・ 宮沢賢治 「黄いろのトマト」
・・・ 早りっ気で思い立つと足元から火の燃えだした様にせかせか仕だす癖が有るので始めの一週間ばかりはもうすっかりそれに気を奪われて居た。 土の少なくなったのに手を泥まびれにして畑の土を足したり枯葉をむしったりした。 けれ共今はもうあき・・・ 宮本百合子 「秋毛」
・・・けれども私たちの生活には習慣というものもあり、その習慣は、いつも進歩したものの考えかたよりはふるい。自分たちの心や感情にある習慣の一部が旧いということがわかってきたと同時に、親たち、兄たち、または夫、そういうこれまで特に女の人の生活に対して・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・СССРで勤労者は多くの権利をもち、例えば解雇するにも、工場で作業縮小の場合一ヵ月の内三日理由なく休んだ場合、二ヵ月以上収監された場合の外、大体労働者の承諾を必要とする。その代り責任はがっちり肩の上にかかっている。 十一月一日晴。・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・参議院の考査委員会は、永井隆氏を表彰しようという案を発表したが、六月十二日、七月三日の週刊朝日は、カソリック教徒であるこのひとの四つの著書が、それぞれにちがった筆者であるというようにいっている。 記録文学のあるものは、クラブチェンコの「・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・フランスの週刊雑誌『カンジット』はジイドをトロツキイストと呼んでいるということも肯ける。そして、これらのことはジイドがその前書の中で予見していたよりも深甚な反動としての影響を今日の人類の運命と文化の発達の上に明にマイナスなものとして、与えな・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・楕円形の大テーブルに、ソヴェト内地旅行案内のパンフレットや対外文化連絡協会の週刊雑誌などがきちんとならべてあった。 СССР地図を後にして一人のソヴェト的紳士がかけている。室の真ん中にタイプライターが一台おいてあり、それに向ってほっそり・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ 例えば労働者を解雇する場合、工場の生産の低減をしなくてはならぬ已を得ない場合、労働者が工場に対して窃盗を働いた場合、それから三ヵ月以上収監された場合、そういうものは無断で解雇してもよい。そうでなければ労働者同意の上、或る場合は次の職業・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・ いよいよ八月二十六日、週刊『婦人民主新聞』がおくり出されることになった。名目上の編輯人である櫛田ふきさんの活動は、不思議な忙しさをもってきた。毎朝、鷺宮から銀座裏へ出勤してくる櫛田さんの大きい手提袋の中には、のりと鍋と刷毛が入れられる・・・ 宮本百合子 「その人の四年間」
・・・『週刊朝日』で、高田保氏と対談している幸田文氏は、その意味のことをいっている。自分が女だもんだから女のことは大体わかるのでという風に。 わたしは、偶然、そのところをよんで、何となし考えこんだ。こんにち、ほんとに女のことのわかっているとい・・・ 宮本百合子 「人間イヴの誕生」
出典:青空文庫