・・・と称する小説戯曲とは全然別の繩張り中に収容されているようである。これはもちろん、形式上の分類法からすれば当然のことであって、これに対して何人も異議を唱えるものはないであろう。しかしまたここに少しちがった立場に立つものの見方からすると、このよ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・それがそこで下車する数人を降ろして、しかして二十人三十人を新たに収容しなければならない事になる。どうしても乗れなくて乗りそこねた数人の不幸な人たちは、三十秒も待った後に、あとから来た車の座席にゆっくり腰をかけて、たとえば暑さの日ならば、明け・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・ 中年学校、老年学校を設置して中年、老年の生徒を収容し、その教授、助教授には最も現代的な模範的ボーイやガールを任命するのも一案である。 子供を教育するばかりが親の義務でなくて、子供に教育されることもまた親の義務かもしれないのである。・・・ 寺田寅彦 「猫の穴掘り」
・・・しかし踊りやお茶の修養があるのと、気質が伝統的に磨かれてきているのと、様子がいいのとで、どことなし落ち著いていた。辰之助の言うとおり、現在別に世帯をもっているおひろの妹と、他国へ出て師匠をしているお絹の次ぎの妹と、すべてで四人もの娘がありな・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・三 人種の発達と共にその国土の底に深くも根ざした思想の濫觴を鑑み、幾時代の遺伝的修養を経たる忍従棄権の悟りに、われ知らず襟を正す折しもあれ。先生は時々かかる暮れがた近く、隣の家から子供のさらう稽古の三味線が、かえって午飯過ぎ・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・先方の口から言出させて、大概の見当をつけ、百円と出れば五拾円と叩き伏せてから、先方の様子を見計らって、五円十円と少しずつせり上げ、結局七八拾円のところで折合うのが、まずむかしから世間一般に襲用された手段である。僕もこのつもりで金高を質問した・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・そうして、この品位は単に門地階級から生ずる貴族的のものではない、半分は性情、半分は修養から来ているという事を悟った。しかもその修養のうちには、自制とか克己とかいういわゆる漢学者から受け襲いで、強いて己を矯めた痕迹がないと云う事を発見した。そ・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
・・・かく完全な模型を標榜して、それに達し得る念力をもって修養の功を積むべく余儀なくされたのが昔の徳育であります。もう少し細かく申すはずですが、略してまずそのくらいにして次に移ります。 さてこういう風の倫理観や徳育がどんな影響を個人に与えどん・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・だから、この技巧はある程度の修養につれて、理想を含蓄して参ります。しかし前種の技巧、すなわち物に対する明暸なる知覚をそのままにあらわす手際は、全然理想と没交渉と云う訳には参りませんが、比較的にこれとは独立したものであります。これをわかりやす・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・心の発展はそのインデペンデントという向上心なり、自由という感情から来るので、われわれもあなた方もこの方面に修養する必要がある。そういうことをしないでも生きてはいられます。また自分の内心にそういう要求のないのに、唯その表面だけ突飛なことを遣る・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
出典:青空文庫