・・・母は自分の父を追懐することの多くなった晩年に於て、祖父が果した文化的な役割の、そういう新しかった面の高い価値を評価することを知らず、ただ祖父の位階勲等や、祖父の発意でたてられたある修養団体で読み上げられる「創祖西村茂樹先生」の面でだけ評価を・・・ 宮本百合子 「わが母をおもう」
・・・多分広告に、修養のために読むべき書だというようなことが書いてあったので、子供が熱心に内容を知りたく思ったのであろう。 私はとりあえずこんなことを言った。床の間にさきごろかけてあった画をおぼえているだろう。唐子のような人が二人で笑っていた・・・ 森鴎外 「寒山拾得縁起」
・・・己にはなんの修養もない。己はあの床の間の前にすわって、愉快に酒を飲んでいる。真率な、無邪気な、そして公々然とその愛するところのものを愛し、知行一致の境界に住している人には、はるかに劣っている。己はこの己に酌をしてくれる芸者にも劣っている」・・・ 森鴎外 「余興」
・・・異なっているのは偏によって意味の違いを表示したもので、発音的には同一語にほかならないこと、従って一つの音を表示する基準的な文字があれば、象形的に全然つながりのない語に対しても、同音である限りその文字が襲用せられていること、などは、わたくしは・・・ 和辻哲郎 「露伴先生の思い出」
出典:青空文庫