・・・この筆者は警視庁の特高課から手記を出版されたパンフレットの執筆者で、モスクから脱出してきた見聞記と称して「モスク」を発表した。また、トロツキーの「裏切られた革命」を大綜合雑誌が別冊附録としたようなジャーナリズムの気風についても見のがしていな・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・党員小池富美子として発表された「女子共産党員の手記」は、まだ多分に、この作者が幼時の環境からしみこまされていたアナーキスティックな爆発があった。しかし、少女時代の労働のために健康を失ったこの作者が、妻、母として、党員として東北の小さい町に負・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・「農村通信員の手記」「貧農組合」「コサック村」、すべて「ラップ」の若手作家、主としてコムソモール出身の作家によって書かれた。 農民作家が、厳しく自己批判すべき時が来た。 ソヴェト農村の社会主義的な集団化は、農民の現実を大きく変化させ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 東大協同組合出版部から、『きけわだつみのこえ』という戦没学生の手記を集めた本が発行された。戦没した学生たちは、帝国主義の侵略戦争がどんなに人類的な犯罪であるかということを、死の訴えとしてのこした。やがて屍となる自分の靴の底へかくした紙・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
これらの手記の選をして何よりもつよく、そして深く感じたことは、日本の社会は、女を、ひとり立ちで生きてゆかなければならない人として、子供のときから育てて来ていなかった、といういたましい事実である。歴史のはげしい波はこれらの女・・・ 宮本百合子 「『この果てに君ある如く』の選後に」
・・・という一冊の本は、闇買いをわるいこととして絶対にそれをしないで病死した一人の若い女教師の手記である。クリスチャンということをこの頃強調する片山首相夫人は、営養失調で死んだ判事の事件に対して新聞記者のインタービューに答え「そこは奥様が少しなん・・・ 宮本百合子 「再版について(『私たちの建設』)」
・・・息子の処女出版のために特別費を心がけている母の愛顧の下で、二十歳の彼は処女作「アンドレ・ワルテルの手記」を書いたのであった。 ジイドは、この「アンドレ・ワルテル」の中に、青年のうちに荒れ狂う肉的なものに対する戦いを表現しようとした。青年・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・スの『マリアンヌ』という新聞に、ロシアの大文豪であったレフ・トルストイの孫息子にあたるジャンという少年が、浮浪児として少年感化院に入れられ、そこから脱走して再び警察の手にとらわれたときかいた「ジャンの手記」というものを発表した。 トルス・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・当時流行作家であったと共に一部からは権威とも目されていた芥川龍之介が、昭和二年七月「或旧友へ送る手記」を残して三十歳の生涯を終るに至った内外の動機は何であったろう。「少くとも僕の場合は唯ぼんやりした不安である。何か僕の将来に対する唯ぼんやり・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・単にゲリラに参加した若者の手記ではなかった。けれども、同時代の作家でたとえばピリニャークが、馬鈴薯の袋をかついで、鉄道の沿線を、あっちにゆきこっちにゆくうちに、蓄積された印象に文筆の表現を導かれはじめたのは偶然であったにちがいない。イヴァー・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
出典:青空文庫