・・・したがって被告としては各自にとって事実無根の公訴をみとめることができないというのが、共通の趣旨であった。二十九歳の元検査掛の被告竹内景助が、他の十一名の被告たちと同じ発言をしないで、直接取調べにあたった検事たちが、きょうの公判廷に姿を見せて・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・ 甲府の渡辺貴代子氏来罹災民への衣類寄附の為、三宅やす子、奥むめおその他と集ってしようと云う。主旨賛成、但、彼女の粗野なべらんめえ口調にはほとほと参ってしまった。 二十八日 英男縫いものの材料としてまとめて置いたぼろを持って・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・ 全篇の結論として、目下問題とされている家族制度、家庭生活改善の理想を徒に外国の風習などに摸倣せず、日本は日本民族独特の見地から、識見を以て発足すべきであると云う主旨には、恐らく何人も意義を挾む者はないでしょう。 あらゆる国々の習俗・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・の道理をのみこめたし、生存の利害はきっちり春桃に結ばれていたし、嫉妬してはならないと云ったから、彼はその種子さえも踏みにじってしまった。李茂にしても、春桃のところから出てほかのどこへ行きたかろう。李茂は、家の内にいて、切手や紙のよりわけが上・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・「ポツダム宣言の趣旨に立脚して……その次」 行を目で追って、「ここだ」 重吉は、もっているペンで大きいバッテンをつけて見せた。「今後、最も厳重に――」「そこまでとぶの? 八艘とびね」 二人は又無言になった。写し役・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・私の書いているその評論の全主旨はプロレタリア文学の存在否定でない。 一篇の評論はその全文を、一冊の本はその全頁を通して読まれ理解されるのが自然だと思う。プロレタリア文学の伝承を忌避したがる一部の人々があるが今日力をつくして拒否すべきもの・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学の存在」
・・・再び、彼らはその平和の殿堂で、その胎んだ醜き伝統の種子のために開戦するであろう。彼らの武器は、彼らのとるべき戦法は、彼らの戦闘の造った文化のために益々巧妙になるであろう。益々複雑になるであろう。益々無数の火花を放って分裂するであろう。かかる・・・ 横光利一 「黙示のページ」
・・・ この時期には内にあるいろいろな種子が力強く芽をふき始めます。ちょうど肉体の成長がその絶頂に達するころで、余裕のできた精力は潮のように精神的成長の方へ押し寄せて来るのです。で、この時期に萌えいでた芽はたとえそれが生活の中心へ来なくても、・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
出典:青空文庫