・・・この主張は、実に、人類の食物の半分を奪おうと企てるものである。換言すれば、この主張者たちは、世界人類の半分、則ち十億人を饑餓によって殺そうと計画するものではないか。今日いずれの国の法律を以てしても、殺人罪は一番重く罰せられる。間接ではあるけ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ことがなければプロレタリア文学は真の芸術であり得ないという片上伸の主張とそのためのたたかいを著者は、同情と批判をもって跡づけている。 この初期の二つの評論にはっきりあらわれているように階級の歴史的経験を、自身の実感としないではいられなか・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・が柔かな紅い色の曲線で描かれたクロッキーであり、その主調がひろ子の愛の情であるにしろ、そのような愛の流露が可能とされている歴史の過程と一貫した階級的な立場の本質は、たたかいとられた生の肯定その発展として作品の隅々にまで鳴っている。「風知草」・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・ それにひきつづく略十年間、一九三三年頃まで文学の主潮はプロレタリア文学にあり、日本の歴史のふくむ複雑な数多の原因によってこの潮流の方向が変えられると共に、文学は、その背景である社会一般の生活感情にあらわれた一種の混迷とともに画期的な沈・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・ここから、四人称という観念の発明が提出されているにも拘らず、作品の主調はあり合わす現実に屈服して全く通俗化の方向を辿るばかりとなった。 観念的な用語の上では一見非常に手がこんでいるように見えて、内実は卑俗なものへの屈従であるような現実把・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・私は『鋲』『主潮』『関西文学』その他を見て編輯に従事している若い活動家が闘っているであろうさまざまの、今日の情勢独特の困難を想像した。そしてこれらの雑誌がともかく刊行されているのは主として東京以西あるいは近隣の地方都市においてであって、東北・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・巨人プロメシウスがオリンパスの神々の首長であるジュピターの神殿から火を盗んで来て、それを地上の人類にもたらした。人間は追々その火を使うことを学び、はじめて鉄を鍛え、それで耕具や武器をこしらえることを発見した。火と鉄とは人類の発展のための端緒・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
・・・にもこの感情が主調をなしている。ジョン・ハーシーという人にあらわれているアメリカのプラグマティズムのプラスの面が、この作品に人間らしい生命をふきこんだ。天津に生れ育ったアメリカ人のハーシーが「アダノの鐘」の主人公としてイタリー系のジョボロ少・・・ 宮本百合子 「「ヒロシマ」と「アダノの鐘」について」
・・・について云々したりすると、そこに一応読者が生じるのは、古典文学の主潮としての「もののあわれ」そのものが知りたいというより、佐藤春夫氏という現代の作家に対する予備知識なり親しさなりで、そのとりあげた問題に一時たりとも目をとられるのである。批判・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・文芸映画とその観客の層との生きた関係でみると観客そのものがそもそも気分的なものに誘われて、気分的な主調でつくられた映画を観て益々現代に生きる自分たちの或る気分に靠れかかるような場合も想像されなくはない。今日のいい評判というようなものの実際の・・・ 宮本百合子 「観る人・観せられる人」
出典:青空文庫