・・・然るにここに幸なるは、一事の我趣味の猶依然たることを証するに足るものがある。それは何であるか。予は我読書癖の旧に依るがために、欧羅巴の新しい作と評とを読んで居る。予は近くは独逸のゲルハルト・ハウプトマンの沈鐘を読んだ。そして予はこの好処の我・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・自然学の趣味もあるという事が分かる。家具は、部屋の隅に煖炉が一つ据えてあって、その側に寝台があるばかりである。「心持の好さそうな住まいだね。」「ええ。」「冬になってからは、誰が煮炊をするのだね。」「わたしが自分で遣ります。」・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・画面全体の効果から言えば、氏の幼稚な趣味が氏の技巧を全然裏切っていると言っていい。『慈悲光礼讃』という画題は、氏がこの画を描こうとした時の想念を現わすものかどうかは知らないが、もしこの種の企図を持ってこの画を描いたとすれば、そこにすでに破綻・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫