・・・モラトリアムが公布されたとき一般の市民は忽ち小額紙幣饑饉で大困難をした。モラトリアム第一日に、各新聞の投書欄は、政治的醜聞として、その公表前に、一部の人々によって小額紙幣が独占された事実を指摘したのであった。これが、事実であった証拠に、政府・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・とお家流で書いた看板の下を潜って、若い小学教員が一人度々出入をしていたということが、後になって評判せられた。 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・ 珍らしいパン附の食事を終ってから、梶と栖方は、中庭の広い芝生へ降りて東郷神社と小額のある祠の前の芝生へ横になった。中庭から見た水交社は七階の完備したホテルに見えた。二人の横たわっている前方の夕空にソビエットの大使館が高さを水交社と競っ・・・ 横光利一 「微笑」
・・・私は初めてここの小学校へ入学した。湖を渡る蒸気船が学校のすぐ横の桟橋から朝夕出ていったり、這入って来たりするたびに、汽笛が鳴った。ここの学校に私は一ヶ月もいると、すぐ同じ街の西の端にある学校へ変った。家がまた新しく変ったからであるが、この第・・・ 横光利一 「洋灯」
・・・ところでこの手紙を書いているうちに、小生が少年時以来養成されて来たと思っていた皇室への情熱が、いつの間にか内容を異にしている――というよりも内容を深めているのに気づかざるを得なかった。小学中学で教え込まれた忠君愛国は、忠君即愛国、君即国であ・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・ 予は自ら知れる限りにおいて生まれながらの反逆者であった。小学の児童としては楠正成を非難する心を持ち、中学の少年としては教育者の僭越と無精神とを呪った。教育者の権威に煩わされなくなった時代には儕輩の愛校心を嘲り学問研究の熱心を軽蔑した。・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫