・・・それは、検事の理解に一致しないすべての証言は、偽証であって、偽瞞であるとこのような独断的、専断的言辞に対して私は心からの憤まんをもっています。」つづいて金被告ものべた。「偽証罪に対する起訴取消を行っていただきたい。」「検事がこのようにすべて・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・或は林氏のように座談会へ袴を穿いて出席することによって自分が文学をするサムライであることを証言しないからであろうか。または、芭蕉の芸術家としての生きかたは、当時の時代的環境によって、鬱屈的であり、浪々的、捨て身すぎて、今日の作家生活の実際に・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・もし出来得ることであるならば、彼はこのとき、フランス皇帝ナポレオン・ボナパルトの荘厳な肉体の価値のために、彼の伊太利と腹の田虫とを交換したかも知れなかった。こうして森厳な伝統の娘、ハプスブルグのルイザを妻としたコルシカ島の平民ナポレオンは、・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・そうして不動坂にさしかかった時に、数知れず立ち並んでいるあの太い檜の木から、何とも言えぬ荘厳な心持ちを押しつけられた。なるほどこれは霊山だと思わずにはいられなかった。この地をえらんだ弘法大師の見識にもつくづく敬服するような気持ちになった。・・・ 和辻哲郎 「樹の根」
・・・そうして、この簡素な太い力の間を縫う細やかな曲線と色との豊富微妙な伴奏は、荘厳に圧せられた人の心に優しいしめやかな手を触れる。―― もとより我々の祖先は、右のごとき感じかたをしたわけではあるまい。しかし彼らはとにかくその漠然たる無意識の・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・食いしばった唇を取り巻く荘厳な筋肉の波。それは人類の悩みを一身に担いおおせた悲痛な顔である。そして額の上には永遠にしぼむことのない月桂樹の冠が誇らしくこびりついている。 この顔こそは我らの生の理想である。四 苦患を堪え忍・・・ 和辻哲郎 「ベエトォフェンの面」
・・・旅は人を自然に近づかしめて、峨々たる日本アルプスの連峰が蜿々として横たわるを見れば胸には宇宙の荘厳が湧然として現われる。この美この壮はもっとも強烈に霊を震※してそぞろに人生の真面目に想いを駛す。ただ惜しむらくは西行と同じ誤りに陥っている。隠・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫