・・・山口一太郎氏の二篇の実録をよむと、この人が二・二六事件をクライマックスとする陸軍部内の青年将校の諸陰謀事件に、密接な関係をもっていたことがはっきり書かれている。同氏は二・二六事件の本質を、陸軍内部の国体原理主義者――皇道派と、人民覇道派――・・・ 宮本百合子 「作家は戦争挑発とたたかう」
・・・女性の人格者としての価値は決して、同じ昇降器に乗合わせた男子に脱帽させる、その脱帽と云う形式で付けられるものではございません。 長い時間がいつか最初の動機の意味も純粋さも失わせて、只一度の形式と化した或礼儀などに固執して、其によって自己・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・葛藤が女性を文学以前において消耗する力は、何とおそろしく執拗だろう。そのたたかいの間から漸々いくらかずつ自身の文学を成長させて来ている事実は、現在私たち同時代の婦人作家の殆ど総てが、女性として結婚生活の経験の上に何かの形でそれぞれの痕をもっ・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・このことは、将校教育をうけた人は知っていよう。「軍服」は、何年ごろの、軍隊経験であったかということを作者は、はっきり書いていない。小さいことのようだが、これはこの作品の真実性のために大切である。もうすこしあとになってからの軍隊は、「軍服・・・ 宮本百合子 「小説と現実」
・・・ 女性の勤労がひろまり高まるにつれて、文化の面でも女性の動きが現れるのは自然だけれども、その勤労が女性の歴史の成長にとってただの消耗であってはならないように、女性の書く本が目の先の過ぎゆく文化的泡沫であったりしては悲しいと思う。 も・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
・・・だから人は見るだろう、一日の発行部数十数万の『イズヴェスチア』新聞社の正面昇降機の横にまでも、絵入り手書きの『イズヴェスチア』勤労者壁新聞は、いつもぶら下っているのを。 ――こんちは。 振かえりつつ見るとムイロフだ。白いゆるやか・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ 青春というものは誰にとっても経過する人生の一時期であるけれども、その経過のしようによっては、歴史が全く夥しい人々の青春を単に消耗するという結果になる。この事実を、人々はどう考えているだろう。一人一人の青春のおのずからな経過と歴史の力が・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・ 骨格逞しい丈夫な民衆の上にあらゆる不如意、不潔、消耗がある。然し彼等はその底をくぐって生きぬくであろう。 民衆のこの生活力の上に立つ限りСССРはアメリカの僧侶が希望する以上に強靭な存在であるのだ。 ファイエルマンは明りを暗く・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・ ――鉄、石炭、麦、靴のような消耗品に至るまでソヴェトはすべての生産を計画的にやっている。映画みたいな芸術的生産も大体一年に何本、どういう種類のものをつくると予定してやっている。 ――芝居の方はどうなんだ? キノと同じかい? ―・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・個人が自分の不得手な表現を強いてするということは大変な精力の消耗だから。 ソヴェトが社会主義社会を建設しようとする大目的に向って基本的に決定している指導方向は断然一つだが、その中にある個性の尊重ということは非常に注意してやっている。活か・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
出典:青空文庫