・・・しかし彼のこれらの試みはまた一派の人からは形式主義象徴主義に堕したものとして非難もされている。しかしこういう議論は映画理論家にとって、また特にソビエトの国是の上から重要かもしれないが、一般映画観賞者の立場からは、たいした意義をもたない事であ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ 転向の原因、勢力消長の決定因子が徹底的に分らない限り、一時間後の予報は出来ても一昼夜後の情勢を的確に予報することは実は甚だ困難な状況にあるのである。 これらの根本的決定因子を知るには一体どこを捜せばよいかというと、それはおそらく颱・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・ 台風の襲来を未然に予知し、その進路とその勢力の消長とを今よりもより確実に予測するためには、どうしても太平洋上ならびに日本海上に若干の観測地点を必要とし、その上にまた大陸方面からオホツク海方面までも観測網を広げる必要があるように思われる・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・優雅と滑稽、貴族的なものと平民的なものとの不規則に週期的な消長角逐があった。それが貞門談林を経て芭蕉という一つの大きな淵に合流し融合した観がある。この合流点を通った後に俳諧は再び四方に分散していくつもの別々の細流に分かれたようにも思われる。・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・哥沢節を産んだ江戸衰亡期の唯美主義は私をして二十世紀の象徴主義を味わしむるに余りある芸術的素質をつくってくれたのである。 * 夕暮よりも薄暗い入梅の午後牛天神の森蔭に紫陽花の咲出る頃、または旅烏の啼き騒ぐ秋の夕・・・ 永井荷風 「伝通院」
・・・なおそれのみに止まらず、紅雨は門と玉垣によって作られた二段三段の区劃を眺めてメエテルリンクやレニエエなどが宮殿の数ある柱や扉によって用いたような象徴芸術の真髄を会得したようにも感じた。」 実際この二世紀以前の建築は自分に対して明治と・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・ことにそれ自身に活動力を具えて生存するものには変化消長がどこまでもつけ纏っている。今日の四角は明日の三角にならないとも限らないし、明日の三角がまたいつ円く崩れ出さないとも云えない。要するに幾何学のように定義があってその定義から物を拵え出した・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ 連続と云う字を使用する以上は意識が推移して行くと云う意味を含んでおって、推移と云う意味がある以上は意識に単位がなければならぬと云う事とこの単位が互に消長すると云う事とは消長が分明であるくらいに単位意識が明暸でなければならぬと云う事と意・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・同じやうに我等の書物に於ける装幀――それは内容の思想を感覚上の趣味によつて象徴し、色や、影や、気分や、紙質やの趣き深き暗示により、彼の敏感の読者にまで直接「思想の情感」を直覚させるであらうところの装幀――に関して、多少の行き届いた良心と智慧・・・ 萩原朔太郎 「装幀の意義」
・・・それは詩の情操の中に含蓄された暗示であり、象徴であり、余韻である。したがつてニイチェの善き理解者は、学者や思想家の側にすくなくして、いつも却つて詩人や文学者の側に多いのである。 近代の文学者の中で、ニイチェほど大きく、且つ多方面に影・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
出典:青空文庫