・・・歴史の消長は強い底流れとなっている社会の必然をはなれてあり得ないのだから、よりよい可能が発見される前奏として、もっとも甚しい混乱や紛糾や欠乏が来ることも十分あり得る。そのような歴史の波に、人間が個々の生活者としてうちまかされるか、それともそ・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・ 或は、ロザリーと云う名は、現代の女性一般に与えられた名で、近代社会が生んだ女性の性格、徳性の欠陥としての事業熱、対社会の活動慾等の、消長史と見るべきでしょうか。〔一九二三年十二月〕・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・婦人の生活、婦人の文化的な創造力の消長というようなものも、基本はここに根ざして、深刻多面な姿を示している。 過去の長い人類文化の歴史のなかで、婦人の創造力が発揮された面というと、それにつれては芸術的な領野が思い浮べられ、特に音楽、文学、・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・ 日本の左翼運動の歴史が実に若いこと、その消長の過程が日本独特な近代社会の成立の性質を反映していること等は、当然プロレタリア文学にも甚しく影響している。文学理論家として過去のそれぞれの段階に意義深い活動をのこした人々はあるけれども、運動・・・ 宮本百合子 「プロ文学の中間報告」
・・・ 日本の文学における人間性の問題は三年ばかり前にヒューマニズムの問題が現実の推移した事情のままに揉み拉がれて以来、不運なめぐり会わせに消長しているために、今日登場する「嫌な奴」が作家との間にもっている内在的関係も云わば複雑怪奇ならざるを・・・ 宮本百合子 「文学のディフォーメイションに就て」
・・・それは、ロシアのそれぞれの時代の社会的背景の前に鮮かに記録されているゴーリキイと、当時のインテリゲンツィアとの相互関係の消長である。 マクシム・ゴーリキイが五つで父に死なれて後、引取られて育った祖父の家の生活は、無知と野蛮と、家長の専制・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・のテーマが含んでいる歴史的な方向、氏によって嘗て提唱された能動精神のその後の消長等に対する疑義をこの作品の内部に見たことを念頭において、告知板の文章を書いておられるのである。 ある文学的雰囲気というようなものや、そこの中でののびのびとし・・・ 宮本百合子 「夜叉のなげき」
・・・自由恋愛が作品に現われたことがあるとしても、それは一時西洋で姦通小説だの、姦通脚本だのというものが問題になっていたと同じことで、真の芸術の消長には大した影響はない。 近ごろは自然主義ということが話題に上ることが少なくなって、その代りに個・・・ 森鴎外 「文芸の主義」
・・・新感覚的表徴は少くとも悟性によりて内的直感の象徴化されたものでなければならぬ。即ち形式的仮象から受け得た内的直感の感性的認識表徴で、官能的表徴は少くとも純粋客観からのみ触発された経験的外的直感のより端的な認識表徴であらねばならぬ。従って官能・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・また Fetisch という概念がアフリカの宗教の象徴として発明された。呪物崇拝などということは全くのヨーロッパ製である。ニグロ・アフリカのどこを探したってニグロの間には呪物の観念などは存していない。 こういうわけで、「野蛮なニグロ」と・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫