・・・「女性なれば別して御賞美あり、三右衛門の家名相続被仰附、宛行十四人扶持被下置、追て相応の者婿養子可被仰附、又近日中奥御目見可被仰附」と云うのである。 十一日にりよは中奥目見に出て、「御紋附黒縮緬、紅裏真綿添、白羽二重一重」と菓子一折・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・年の暮れに軍功のあった侍に加増があって、甚五郎もその数に漏れなんだが、藤十郎と甚五郎との二人には賞美のことばがなかった。 天正十一年になって、遠からず小田原へ二女督姫君の輿入れがあるために、浜松の館の忙がしい中で、大阪に遷った羽柴家へ祝・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・彼女たちは陽に輝いた坂道を白いマントのように馳けて来た。彼女たちは薔薇の花壇の中を旋回すると、門の広場で一輪の花のような輪を造った。「さようなら。」「さようなら。」「さようなら。」 芝生の上では、日光浴をしている白い新鮮な患・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・わたくしが妹の手を取って遣りますと、その手に障る心持は、丁度薔薇の花の弁に障るようでございます。妹は世の中のことを少しも存じません。わたくしも少しも存じません。それで二人は互に心が分かっているのでございます。どうか致して、珍らしく日が明るく・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・ デュウゼは薔薇の花を造りながら、田舎の別荘で肺病を養っている。僕はどうかして一度逢ってみたいと思う。でなくとも舞台の上の絶妙な演技を味わってみたいと思う。 シモンズの書いた所によると、デュウゼは自分の好きな人と話をする時には、・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫