・・・ こういう読者層はさすがに今日自分たちの判断が曇らされぼんやりさせられて来ていることは感じて、書評にたよったり、出版書肆の信用と目されるものにたよったり、著書の定評的評判にたよったりして本を読んでゆく。それにしろ、根本に於て、何となく自・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・舟橋聖一、小松清、豊田三郎の諸氏で、これらの人々は雑誌『行動』によって行動の文学を創らんとしたのであった。 彼等は作家のより広汎な社会生活と生活に対する積極性と若き時代のモラルとを自身に求めたのであった。けれども、第一これらの人々が社会・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ 河上徹太郎、小林秀雄諸氏によって、その伝記が余り詳らかでないシェストフは日本文壇に渡来させられた。シェストフはキエフ生れのロシア人で一九一七年にロシアからフランスへ亡命した評論家である。『ドストイェフスキーとニイチェ』そのほか六巻の著・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・そのこころに通じるものがあるようで、火野葦平、林房雄、今日出海、上田広、岩田豊雄など今回戦争協力による追放から解除された諸氏に共通な感懐でもあろうか。 東京新聞にのった火野の文章のどこの行をさがしても、「昔にかえった」出版界の事情「老舗・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・漢書之部も、第一門が四書、五経や孝経、儒家、諸子、西教等を包括している。 今日の図書館員の目から見れば、此那大ざっぱな、まとまりのない目録は稚拙の極で、小規模の箇人蒐集をまとめる役にも立たないように思えるに違いない。けれども、私にこの部・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・ 出版書肆からの手形の書きかえでやっとやりくっているのに、バルザックは馬を数頭、馬車を二台も買って、自分は金ボタンのついた青い服を着、貴族風な長髪を調え、手には当時すべての漫画に添えて描かれたトルコ玉を鏤めた有名な杖をもち、貴族街サン・・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・荒木巍氏が、最近出版された小説集の印税代りに、出版書肆からスキー道具一式を貰い、「滑れ銀嶺、歓喜をのせて」雪上出版記念会を行ったというエピソードは、朗らかなようではあるが、私に一つのことを想い起させた。それは、明治二十何年という時代、三宅花・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・というペテルブルグの出版書肆を買いとった。恥を知らぬツァーの政府の言論と出版の自由の抑圧に抵抗する進歩的な書肆が必要であったためである。 一九〇四年のメーデーは、日露戦争開始によって特別の意味をもつものであるが、その時のビラを書いたのは・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・という出版書肆を買った。少しでも自由に、進歩的な本を出版しようという意志なのであった。二年後、ゴーリキイは社会民主党と関係をもちはじめ、二十余年に亙るレーニンとの友情が結ばれるに至った。 ロシアの社会は急激な濤に押され、世界史に顕著な一・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・日本の家族制度、財産の相続を眼目にした親子関係の見方においては、嫡出子と庶子、私生子の区別は非常に厳重で、生まれた子供は天下の子供であるという人間らしい自由さを欠いている。けれども、戦争が進行して総ての若者を動員し、彼等の命を犠牲として要求・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫