・・・けれども、如何仕様も無い、這って行く外はない。咽喉は熱して焦げるよう。寧そ水を飲まぬ方が手短に片付くとは思いながら、それでも若しやに覊されて…… 這って行く。脚が地に泥んで、一と動する毎に痛さは耐きれないほど。うんうんという唸声、それが・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・「君にも解らないじゃ、仕様が無いね。で、一体君は、そうしていて些とも怖いと思うことはないかね?」「そりゃ怖いよ。何も彼も怖いよ。そして頭が痛くなる、漠然とした恐怖――そしてどうしていゝのか、どう自分の生活というものを考えていゝのか、・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・例の椀大のブリキ製の杯、というよりか常は汁椀に使用されているやつで、グイグイあおりながら、ある者は月琴を取り出して俗歌の曲を唄いかつ弾き、ある者は四竹でアメリカマーチの調子に浮かれ、ある者は悲壮な声を張り上げてロングサインを歌っている、中に・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・「寧ろこの使用い古るした葡萄のような眼球をり出したいのが僕の願です!」と岡本は思わず卓を打った。「愉快々々!」と近藤は思わず声を揚げた。「オルムスの大会で王侯の威武に屈しなかったルーテルの胆は喰いたく思わない、彼が十九歳の時学友・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・と真蔵は放擲って置いてもお源が今後容易に盗み得ぬことを知っているけれど、その理由を打明けないと決心てるから、仕様事なしにこう言った。「充満で御座います」とお徳は一言で拒絶した。「そうか」真蔵は黙って了う。「それじゃこうしたらどう・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・そしてその復活は元のままのくりかえしではなく必ず新しく止揚されて、現段階に再登場しているのだ。その二千五百年間の人間の倫理思想の発展と推移とを痕づけることは興味津々たるものである。 倫理学史にはフリードリッヒ・ヨードルの『倫理学史』、ヘ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・「えゝい、仕様がない。このまゝ埋めてしまえ! 面倒だ」 将校はテレかくしに苦笑した。 シャベルを持っている兵卒は逡巡した。まだ老人は生きて、はねまわっているのだ。「やれツ! かまわぬ。埋めっちまえ!」「ほんとにいゝんです・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・「露助は、どうしてるんだ。」「はい。スメターニンは、」また息切れがした。「雪で見当がつかんというのであります。」「仕様がない奴だ。大きな河があって、河の向うに、樅の林がある。そういうところは見つからんか、そこへ出りゃ、すぐイイシ・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・ それを知っている青年達は中隊の班内で寝台を並べてねる同年兵たちに、そのことを噛みくだいて分るように語らねばならぬ、武器の使用方法を習って、その武器を誰れに対して用いるか、そのことについてほかの分かっていない同年兵たちに語らねばならぬ。そし・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・御前でそういうことがあれば、何とも仕様は無いのだ。自分の不面目はもとより、貴人のご不興も恐多いことでは無いか。」 ここまで説かれて、若崎は言葉も出せなくなった。何の道にも苦みはある。なるほど木理は意外の業をする。それで古来木理の無いよう・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
出典:青空文庫