・・・なども、この大きな問題を考究するときの資料になるべきものであろう。 映画の世界の道徳は人間の世界の道徳とは必ずしも一致しなくてもよい。それは世界がちがうからである。しかし、一般の観客にはこの二つの世界の相違が明白に意識されていない。それ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・この前者の方則については心理学のほうから若干の根拠は供給されるとしても、後者に関する資料はほとんどすべての場合において永久に失われている。従ってほんとうに科学的な推定を下すということはほとんど望み難いことである。ただできうる唯一の方法として・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・もとよりただ、一つの貧しい参考資料を提供するという以外になんらの意図はないのである。そういうわけで、もちろん、論文でもなく教程でもなく、全く思いつくままの随筆である。文学者の文学論、文学観はいくらでもあるが、科学者の文学観は比較的少数なので・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ しかし、この流行言葉を口にする人の中で、本当に学位濫造の事実があるかないかを判断するだけの資料と能力をもっている人がどれだけあるかは極めて疑わしいと思われる。 学位を受ける人の年ごとの数が大きいということだけでは少しも濫造の証拠に・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・熱心な野鳥研究家のうちにもしこの実測を試みる人があれば、その結果は自分の仮説などはどうなろうとも、それとは無関係に有益な研究資料となるであろう。 星野温泉はちょっとした谷間になっているが、それを横切って飛ぶことがしばしばあった。そういう・・・ 寺田寅彦 「疑問と空想」
・・・そういう場合にこの飼料となる書籍がいっそう完全なる商品として大量的に生産されるのもまた自然の成りゆきと見るべきであろうか。 日本では外国の書物を手に入れるのがなかなか不便である。書店に注文すると二か月以上もかかる。そうして注文部と小売部・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・それで、もし、この謙信居城の地の地すべりに関する史料を捜索して何か獲物でも見つかれば少しは話が物になるが、今のところではただの空想に過ぎない。しかしこの話がともかくもそういう学問上の問題の導火線となりうる事だけは事実である。・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・それで自分は、ちょうど色盲の人に赤緑の色の観念が欠けているように、健康なからだに普通な安易な心持ちを思料する事ができないのではないかと思う事もある。もっとも健康な人は、そういういい心持ちが常態であってみれば、病後ででもない限りやはりそれを安・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・是亦明治風俗史の一資料たることを失わない。殊に根津遊廓のことに関しては当時の文書にして其沿革を細説したものが割合に少いので、わたくしは其長文なるを厭わず饒歌余譚の一節をここに摘録する事とした。徒に拙稿の紙数を増して売文の銭を貪らんがためでは・・・ 永井荷風 「上野」
・・・またおしゃまな娘美登里の住んでいた大黒屋の寮なども大方このあたりのすたれた寺や、風雅な潜門の家を、そのまま資料にしたものであろうと、通るごとにわたくしは門の内をのぞかずにはいられなかった。江戸時代に楓の名所といわれた正燈寺もまた大音寺前にあ・・・ 永井荷風 「里の今昔」
出典:青空文庫