・・・ などと間伸のした、しかも際立って耳につく東京の調子で行る、……その本人は、受取口から見た処、二十四、五の青年で、羽織は着ずに、小倉の袴で、久留米らしい絣の袷、白い襯衣を手首で留めた、肥った腕の、肩の辺まで捲手で何とも以て忙しそうな、そ・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・いくら雪国でも、貴下様、もうこれ布子から単衣と飛びまする処を、今日あたりはどういたして、また襯衣に股引などを貴下様、下女の宿下り見まするように、古葛籠を引覆しますような事でござりまして、ちょっと戸外へ出て御覧じませ。鼻も耳も吹切られそうで、・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・皆真赤なランニング襯衣で、赤い運動帽子を被っている。彼等を率いた頭目らしいのは、独り、年配五十にも余るであろう。脊の高い瘠男の、おなじ毛糸の赤襯衣を着込んだのが、緋の法衣らしい、坊主袖の、ぶわぶわするのを上に絡って、脛を赤色の巻きゲエトル。・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ 時節もので、めりやすの襯衣、めちゃめちゃの大安売、ふらんねる切地の見切物、浜から輸出品の羽二重の手巾、棄直段というのもあり、外套、まんと、古洋服、どれも一式の店さえ八九ヶ所。続いて多い、古道具屋は、あり来りで。近頃古靴を売る事は……長・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・と、いう言葉の真意を見出されるようになったのです。 これ等の心やりも、注意も、みな子供に対する深い愛からに他ありません。自分が子供を持ってみて、はじめて他の親たる人達の心も理解されるのです。自分の子供が可愛ければ、他の子供にもやさしくな・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・たとえば自然の風物に対しても、そこには日毎に、というよりも時毎に微妙な変化、推移が行われるし、周囲の出来事を眺めても、ともすればその真意を掴み得ないうちにそれがぐん/\経過するからである。しかし観察は、広い意味の経験の範囲内で、比較的冷静を・・・ 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
・・・ 倶楽部の人々は二郎が南洋航行の真意を知らず、たれ一人知らず、ただ倶楽部員の中にてこれを知る者はわれ一人のみ、人々はみな二郎が産業と二郎が猛気とを知るがゆえに、年若き夢想を波濤に託してしばらく悠々の月日をバナナ実る島に送ることぞと思えり・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・夫なる老人の取繕いげにいうも真意なきにあらず。「さなり、げにその時はうれしかるべし」と答えし源叔父が言葉には喜び充ちたり。「紀州連れてこのたびの芝居見る心はなきか」かくいいし若者は源叔父嘲らんとにはあらで、島の娘の笑い顔見たきなり。・・・ 国木田独歩 「源おじ」
・・・中にも念仏信者の地頭東条景信は瞋恚肝に入り、終生とけない怨恨を結んだ。彼は師僧道善房にせまって、日蓮を清澄山から追放せしめた。 このときの消息はウォルムスにおけるルーテルの行動をわれわれに髣髴せしめる。「道善御房は師匠にておはし・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・という、仏陀の予言と、化導の真意をあらわす、彼の本領の宣言書である。彼の不屈の精神はこの磽こうかくの荒野にあっても、なお法華経の行者、祖国の護持者としての使命とほこりとを失わなかった。 佐渡の配所にあること二年半にして、文永十一年三月日・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
出典:青空文庫