・・・その生物とは何であるか、そのことあまりに深刻にして諸氏の胸を傷つけるであろうがこれ真理であるから避け得ない、率直に述べようと思う。総ての生物はみな無量の劫の昔から流転に流転を重ねて来た。流転の階段は大きく分けて九つある。われらはまのあたりそ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・今日、豊年という日本の秋には、深刻な失業の問題が私たちをおびやかしていてその対象は先ず婦人青年です。国鉄を見てもそれはすぐわかります。この間の踊を熱中したのはどんな人々でしたろう。若い婦人若い男の人たちでした。太鼓は鳴ります。うたがきこえま・・・ 宮本百合子 「朝の話」
一 第二次ヨーロッパ大戦は、私たち現世紀の人間にさまざまの深刻な教訓をあたえた。そのもっとも根本的な点は国際間の複雑な利害矛盾の調整は、封建的で、また資本主義的な強圧であるナチズムやファシズムでは・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・彼は、或は彼等は、神国日本の男子にとって最も無邪気で自然であった思索形式そのままを、民族精神のよき標本のように、書目録の上に現しているのである。 彼等は、第一門に敬神、釈教を区分した。第二門に政書、職官、礼度、奏議、教育。第三門に天文、・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・一般がそうなれば、むしろ女学校を出て、上の学校に入るのでもなく、勤めもせず、これまでのように家にいる、と申告することにかえって何かの決心を求められるような心理になって来ると思える。何のために家庭にのこるのか、その理由が自分にはっきりわからな・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・役所では、隣組や町会に国民調査をまかした結果として、この次は各自申告をさせる、と云っている。しかし、ただ調査のやりかたの不十分というばかりではないと思える。やはり根本には、総選挙というものが、わたしたち一人一人の生活の打開のために、どれほど・・・ 宮本百合子 「春遠し」
・・・眼鏡のつるに到る金の申告。体位向上徒歩奨励、幼児保健の問題、戦没者の母子寮の設立などと全く背までくっついていて離れられない双生児の歩む姿である。 風俗の心理というものは、このどちらかの一方にだけ範囲を限ってそれぞれのものがあるのではなく・・・ 宮本百合子 「風俗の感受性」
・・・ 同時に主要食糧供出に対する強権発動のことが云われている。申告すべき退蔵物資の十六種目一覧表も載った。ここに又一つ奇妙なことがある。主要食糧は、なるほど直接人命にかかわる性質をもっている。だが、農民は一年の労苦を傾けて、それを生産した者・・・ 宮本百合子 「モラトリアム質疑」
・・・その頃は申告の為方なんぞは極まっていなかったが、廉あって上官に謁する時というので、着任の挨拶は正装ですることになっていた。 翌日も雨が降っている。鍛冶町に借家があるというのを見に行く。砂地であるのに、道普請に石灰屑を使うので、薄墨色の水・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・これは処世法の最深刻なるものかも知れない。これに反して、人に余儀なくせられたのでなく、ことさらに自家の醜を白状した人が稀にはある。ルソオの如きがそれである。しかしルソオは精神病になり掛かっていたらしい。私の誤訳を指摘してくれられた人達の指摘・・・ 森鴎外 「不苦心談」
出典:青空文庫