・・・しかるにこのごろの多数の新進画家は、もう天然などは見なくてもよい、か、あるいはむしろ可成的見ないことにして、あらゆる素人よりもいっそう皮相的に見た物の姿をかりて、最も浅薄なイデオロギーを、しかも観者にはなるべくわかりにくい形に表現することに・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・然るにこの頃の多数の新進画家は、もう天然などは見なくてもよい、か、あるいはむしろ可成的見ないことにして、あらゆる素人よりも一層皮相的に見た物の姿をかりて、最も浅薄なイデオロギーを、しかも観者にはなるべく分りにくい形に表現することによって、何・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・そう云った風に夢中になっているときには、暑さや寒さに対して室温並びに衣服の調節を怠るような場合がどうしても多い上に、身心ともに過労に陥るのを気持の緊張のために忘却して無理をしがちになるから自然風邪のみならずいろんな病気に罹りやすいような条件・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・御馳走の直接の結果であるか、それとも御馳走に随伴する心身の疲労のためだかその点は分からないが、とにかく事実そういう場合が多いらしい。 昔から、粗食が長寿の一法だとの説がある。これは考えてみると我がM君の説を裏側から云ったもののように思わ・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・さらに私にとって重大なのは下車後の身心の疲労をこうして免れる事である。 目的地に一分ないし二分早く到着する事がそれほど重大であるような場合は、少なくも私のようなものにはほとんど皆無であると言ってもいいのである。私のようなものでなくても、・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・いたずらに指を屈して白頭に到るものは、いたずらに茫々たる時に身神を限らるるを恨むに過ぎぬ。日月は欺くとも己れを欺くは智者とは云われまい。一刻に一刻を加うれば二刻と殖えるのみじゃ。蜀川十様の錦、花を添えて、いくばくの色をか変ぜん。 八畳の・・・ 夏目漱石 「一夜」
・・・ 沙翁の方から述べますと――あの句は帝王が年中の身心状態を、長い時間に通ずる言葉であらわさないで、これを一刻につづめて示している。そこが一つの手際であります。その意味をもっと詳しく説明するとこうなります。uneasyと云う語は漠然たる心・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ そこで今云った通り新参の私のあとから、すでに四五人の新進作家が出るくらいだから、そのあとからもまた出て来るに違ない。現に出つつあるんでしょう。また未来に出ようとして待ち構えている人も定めて多い事だろうと思います。して見るとこれらの四五・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・金沢にいた十年間は私の心身共に壮な、人生の最もよき時であった。多少書を読み思索にも耽った私には、時に研究の便宜と自由とを願わないこともなかったが、一旦かかる境遇に置かれた私には、それ以上の境遇は一場の夢としか思えなかった。然るに歳漸く不惑に・・・ 西田幾多郎 「或教授の退職の辞」
・・・我々は抽象的意識的自己を否定した所、身心一如なる所に、真の自己を把握するのである。今や我々はかかる真の実践的自己、身心一如的自己の自覚の立場から、従来の哲学を考え直して見なければならない。私が再びデカルトの立場へと主張する所以である。しかし・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
出典:青空文庫