・・・自分を胎のうちから愛し育てて呉れた者と云うつきない愛、信頼によって、他に比類ない深甚な友愛によって結ばれた横の関係となるのです。何歳になっても、親子、と云うやや階級的な段ではありません。もう、親は親の信念、子は子の信念で生活すべきもの、そし・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・学が否定され、民衆の文学、大衆の文学が云われて来て、ブルジョア文学における人間性が過去の追究力を喪失し、あるがままの現れにしたがって写し描いてゆく、というような状態に陥る危険を示していることはまことに深甚な示唆を含んでいる。文学において同じ・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・例えば、初期の左翼芸術理論に深甚なる影響を及ぼしたプレハーノフやデボーリンの理論は、一九三二年以来高められた国際的な哲学・芸術理論から検討によってその理論における一部の誤謬が認められているのであるが、筆者は既に当時それらの成果を十分摂取して・・・ 宮本百合子 「『文芸評論』出版について」
・・・も亦、伝説が、日本の神人を語るより以前からの「日本人」の一断面ではないだろうか。私は今、紐育の町中に居る。私の足の下には靴の皮がある。キルクの床がある。石とコンクリートの下には、アメリカの土がある。けれども、けれども、私には、小さい島国の、・・・ 宮本百合子 「無題」
・・・桜は春咲く花と云っても、確定した日までは予言出来ないように、深甚な運命の戸口は、箇性の置かれた繞境、発育の程度によって、皆異なった瞬間に開かれます。教育者などが或る時陥りがちな、概念的類推にのみよらず、自己の道程を、全く自己に即して内観する・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・ 自然主義の小説は、際立った処を言えば、先ずこの二つの特色を以て世間に現れて来て、自分達の説く所は新思想である、現代思想である、それを説いている自分達は新人である、現代人であると叫んだ。 そのうちにこういう小説がぽつぽつと禁止せられ・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・これは新人と云う雑誌に出ている。第一部の劇場にての前戯に、道化方がアイン・ブラアウェル・クナアベのいるのは劇場の利方だと云っている。この確りした男は役者である。それを作者と誤って訳した。すぐその跡で、道化方が作者にブラアヴであれと云っている・・・ 森鴎外 「不苦心談」
・・・大聖威怒王も、ちぇイ日ごろの信心を……おのれ……こはこは平太の刀禰、などその時に馳せついて助…助太刀してはたもらんだぞ」 怨みがましく言いながら、なおすぐにその言葉の下から、いじらしい、手でさしまねいで涙を啜り、「聞きなされ。ああ何・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫