・・・煖炉があるのに、枕元に真鍮の火鉢を置いて、湯沸かしが掛けてある。その傍に九谷焼の煎茶道具が置いてある。小川は吭が乾くので、急須に一ぱい湯をさして、茶は出ても出なくても好いと思って、直ぐに茶碗に注いで、一口にぐっと呑んだ。そして着ていたジャケ・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・――梶は自分の心中に起って来たこの二つの真実のどちらに自分の本心があるものか、暫くじっと自分を見るのだった。ここにも排中律の詰めよって来る悩ましさがうすうすともみ起って心を刺して来るのだった。先日までは、まだ栖方の新武器が夢だと思っていた先・・・ 横光利一 「微笑」
・・・ 特に私は今、千数百年以前の我々の祖先の心境を心中に描きつつ、この問題を考察するのである。 まず私は、人間の心のあらゆる領域、すなわち科学、芸術、宗教、道徳その他医療や生活方法の便宜などへの関心等によって代表せられる人間の生のあ・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫