・・・ 平板に円孔を穿ったものの伸長変形に関する理論と実験の結果を比べたものが学位論文となっている。今日でこそ珍しくないであろうが、当時ではかなりオリジナルな面白い試みであったと思われる。船舶工学方面の研究では、波浪による船のヨーイングに関す・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・例えば毒殺の嫌疑を受けた十六人の女中が一室に監禁され、明日残らず拷問すると威される、そうして一同新調の絹のかたびらを着せられて幽囚の一夜を過すことになる。そうして翌朝になって銘々の絹帷子を調べ「少しも皺のよらざる女一人有」りそれを下手人と睨・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・だれの責任であるとか、ないとかいうあとの祭りのとがめ立てを開き直って子細らしくするよりももっともっとだいじなことは、今後いかにしてそういう災難を少なくするかを慎重に攻究することであろうと思われる。それには問題のつり橋のどの鋼索のどのへんが第・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・これはよほど慎重に考えてみなければならないかなり大事な問題である。 学者の中にも科学の応用に興味を有ち、その方面に特別の天賦を具えている人がある。また一方では純理的の興味から原理や事実の探究にのみ耽る人もある。中には両方面を併せて豊富に・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
一 靴のかかと 夏になったので去年の白靴を出して見ると、かかとのゴムがだいぶすり減っている。靴自身も全体にだいぶひどくなっているから一つ新調することにした。買いに行った店にはゴムのかかとのが無かったのでその・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・かくのごとき場合には公算論の指示する統計的方法を取る外なかるべきも、公算が変数の連続函数なりと断定し難く、また最大公算を有する場合が唯一ならざる場合には特別に慎重なる考慮を要すべし。 地震予報をして天気予報のごとき程度まで有効ならしむる・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・はげしい恐慌に襲われた彼らは自分の身長の何倍、あるいは何十倍の高さを飛び上がってすぐ前面の茂みに隠れる。そうして再び鋏がそこに迫って来るまではそこで落ち付いているらしい。彼らの恐慌は単に反射的の動作に過ぎないか、あるいは非常に短い記憶しか持・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・それらのだいたい同じくらいの年ごろの女の子が皆同じ制服を着ているからちょっと見ると身長の差別と肉づきの相違ぐらいしか目につかないようである。 制服というものはある意味では人間の個性を掩蔽するものである。少し離れて見れば一隊の兵士は同じ鋳・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・の手は自由自在に伸長されるもので、こんなにまで長くなり得るものだという事が、この「事実」で証明されるというのであった。 いろんな奇抜な方法で雀や鴉を捕る話も面白かった。一例を挙げると、庭へ一面に柿の葉を並べておいて、その上に焼酎に浸した・・・ 寺田寅彦 「重兵衛さんの一家」
・・・ことにツェッペリンの襲英などに際しては気象状態に最も慎重な注意を払うは勿論であろう。それには英国側の観測が重要であるから、在英独探中にはこの方の係りも必ずあるだろうと想像される。 ついこの頃の雑誌で見ると、英国の気象局長ショー氏は軍事上・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
出典:青空文庫