・・・それだからこそ、若い人たちを指導する立場にいるひとは慎重で常識を明らかにして、その若さのよさを笑いものにするようなことがあってはなるまいと思う。 新体制という声は、若人よ立て、という響をおこしたけれど、このことは実際生活の中でどんな形で・・・ 宮本百合子 「女の行進」
・・・ 地方文化と都会文化との分裂、地方が文化上の搾取に会うことは、民主精神が伸長して、地方における人民自治の実質が高まったとき、根底から変化させられる。 社会政治の全面に、わたしたちの健全な判断力が反映してゆくにつれて、文化に対しても私・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・事情が変化して、人間らしい自由を建設しようとする本性が伸張されなければならないいまになっても、しいられてできた内部抵抗の癖は、そこまで心情を脱却させないで、これを、民主主義への懐疑、政治的・芸術的良心への疑惑、人間性発展の確信への狐疑として・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ 意味深長に、威脅的に云った。「どうも世の中の方はどんどん進んで行くね、あなたもそうやって坐ってるうちに、いつの間にかおいてきぼりをくいますよ、ひ、ひ、ひ」 新聞を見せて呉れというと、わざと軍人テロリスト団が首相官邸へ乱入したと・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・それを書きあげて、『新潮』へ送ってほとんど間もなく、すっかり仕事が中断されたわけです。府中へは私もひどい風をひいたとき行きそうになって、おやめになったそうです。 私が伺ってあげた読書のプランについてのお考えはいかがですか。少くとも文学に・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・私はやっと生活の上で闊達であるばかりでなく文学の上でも闊達ならんとしているらしいから一層慎重に勉強をすすめるつもりです。 あなたに叔父様は目のことを注意なすった様子ですが、呉々も読みすぎぬよう願います。それから風呂へ入るとき、風呂桶のフ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・『新潮』は新年号に十五枚ぐらいの小説を十五人ぐらいにかかせているが、批評によると、短篇アンサンブルとしての効果なし。稲ちゃんも大変スタイルに留意して試みている。矢田津世子が書き、たい子がかいている。俊子さんの第三部は『改造』二月に出るでしょ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・毛糸の寒中用のももひきジャケツは、今年御新調です。柔く軽いが、これまでのものより上等です。今栄さんが編んでいます。夜着はお気に入りましたか? 割合心持よい色の工合でしょう。 この間は田村俊子さん、重治さん、間宮さんたちと、稲ちゃんのとこ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・むかし『新潮』などの慣例であった月評座談会の形式が『文学界』その他に新しい文学行政的顔ぶれで復活した。その席では、二十世紀のこの時期に動いている世界社会の苦悩、相剋、発展へのつよい意欲とその実験にかかわる文学の、原理的な諸問題について究明さ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ スーザンの心の波は慎重に誠意をもってたどられており、作者は、スーザンの雄々しく美しい生活態度を描いてそこから人類の命をつらぬく積極的な生活力を暗示している。けれども、今日スーザンが経つつある沢山の苦しみや悲しみは、ほかならぬその経験を・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
出典:青空文庫