・・・ 明治、大正と徐々に成熟して来た日本の文学的諸要素が、世相の急激な推移につれて振盪され、矛盾を露出し、その間おのずから新たな文芸思潮の摸索もあって、今日はまことに劇しい時代である。日本に於てはロマンチシズムが今日どういう役割を果している・・・ 宮本百合子 「意味深き今日の日本文学の相貌を」
今日、日本は全面的な再出発の時機に到達している。軍事的だった日本から文化の国日本へということもいわれ、日本の民主主義は、明治以来、はじめて私たちの日常生活の中に浸透すべき性質のものとしてたち現れてきた。 民主という言葉・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ 読む心持のあり場所が、はじめは純文学作品の方にあってその人の新聞小説も読まれたのかもしれないが、だんだん新聞小説独特の空気に浸透されて来て、いくらか寝そべったような態度が、遂には純文学作品の体臭、身ごなしまで及び、書く方も読む方もそこ・・・ 宮本百合子 「おのずから低きに」
・・・教養あるレスペクタブル・ファミリイであり、レスペクタブル・ファミリイと英語で形容するにふさわしい英文学の影響が、単に趣味にとどまらず作家的内容の一部にまで浸透しています。あなたは一人の母として、三人の小さい者たちとともに宵に寝、早朝におきつ・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・ ウォーレスの新党が進歩党と名づけられ、むだなかけひきは一切ぬきに世界平和と民主主義推進の綱領を正面にかかげて立候補したとき、あいまいに立ちこめた雲がさけて、ひとすじのつよい明るい光が射出した感じを受けたのは、わたしたちだけではなかった・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・時はたって、秋風がふきそめるきのうきょう、この不可解な状態のかげにひそむ一つの理由として生活的な問題がおいおい一般の推測に浸透してきた。丸の内の宏壮な建物を見てもわかるように、保険会社は富んでいるものだが、現在、生命保険会社の支払い方法は、・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・迫り、泣かせ、圧倒するリズムがあれから浸透して来ますか?ああ、私の望むもの、私の愛すもの其は、我裡からのみ湧き立って来るものだ。静に燃え、忽ちぱっとをあげ、やがて ほのかに 四辺を照す。 *新・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・と云われたことは、社会主義リアリズムへ展開して、もとよりその核心に立つ労働者階級の文学の主導性を意味しているのであるが、前衛の眼の多角性と高度な視力は、英雄的ならざる現実、その矛盾、葛藤の底へまで浸透して、そこに歴史がすすみ人間性がより花開・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・経済的・政治的活動に全生活と精力を集注する大部分の組合員と、その一部にはいわゆる文学趣味も滲透している文学サークルの人々との間に、同じ働く人々ながら、現実に向う感情には、いくらかのくいちがいも生じた。一九四六―七年、日本の全産業面に労働組合・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・きであったが、プロレタリア作家の或るものは、必しも過去の現実へ追究をすすめてゆく要求は抱かず、文学上の諸問題のかかる紛糾が根にもっているところの更に大規模で複雑な社会矛盾の姿の裡へ一市民として生活的に浸透し、健全な発展の方向を有するヒューマ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫