・・・性的な欲望を満たすことは喉の干いた時一杯の水をのむにひとしいという言葉の最も素朴な理解が、恋愛、結婚に対する過去の神秘主義的封建的宿命論の反撥として、勇敢に実行にうつされた。個人生活と階級人としての連帯的活動とが二元的な互に遊離したものとし・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・石は意志を現す、とそんな冗談をいうほどまでに、彼は、長年の生活のうちこの石からさまざまな音響の種類を教えられたが、これはまことに恐るべき石畳の神秘な能力だと思うようになって来たのも最近のことである。何かそこには電磁作用が行われるものらしい石・・・ 横光利一 「微笑」
・・・ Form の神秘。彼女はそれを悟った。彼女は Stil を貫徹した。元来スチルというものは学校の先生が言うように古えの芸術家から学ぶべきものではない。人間の奥底にひそんでいるのだ。自分の胸から掘り出すべきものだ。デュウゼはそれを知って・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
・・・しめじ茸に至れば清純な上に一味の神秘感を湛えているように見える。子供心にもこういうふうな感じの区別が実際あったのである。特にこれらの茸と毒茸との区別は顕著に感ぜられた。赤茸のような鮮やかな赤色でもかつて美しさを印象したことはない。それは気味・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
出典:青空文庫