・・・ 聖書は来世の希望と恐怖とを背景として読まなければ了解らない、聖書を単に道徳の書と見て其言辞は意味を為さない、聖書は旧約と新約とに分れて神の約束の書である、而して神の約束は主として来世に係わる約束である、聖書は約束附きの奨励である、・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・もっとも肺病薬にしろ、もっと良い新薬が出て来たし、それに世間も悧巧になるし、あれやこれやで、これまで手をひろげた無理がたたったのだ。 派手な新聞広告が出来なくなると、お前の名も世間では殆んど忘れてしまった――というほどでなくとも、たしか・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・そうして新約の時代に到って、サタンは堂々、神と対立し、縦横無尽に荒れ狂うのである。サタンは新約聖書の各頁に於いて、次のような、種々さまざまの名前で呼ばれている。二つ名のある、というのが日本の歌舞伎では悪党を形容する言葉になっているようだが、・・・ 太宰治 「誰」
・・・鞄には原稿用紙とペン、インク、悪の華、新約聖書、戦争と平和第一巻、その他がいれられて在る。温泉宿の一室に於いて、床柱を背負って泰然とおさまり、机の上には原稿用紙をひろげ、もの憂げに煙草のけむりの行末を眺め、長髪を掻き上げて、軽く咳ばらいする・・・ 太宰治 「令嬢アユ」
・・・ ニイチェのショーペンハウエルに対する関係は、新約全書の旧約全書に対するやうなものである。だれも知る通り、旧約の神エホバは怒と復讐の神であり、新約の神は愛と平和の神である。この二つの神は正反対の矛盾として対蹠して居る。しかも新約は旧・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・未来において一層荘重な新訳が出るならば、私もそれを歓迎する一人たることを辞せないだろう。 森鴎外 「訳本ファウストについて」
出典:青空文庫