・・・愛と情熱と自信とをもってすればできないことはない。現に私は学生時代に、修身教育しか知らなかった愛人を、ゴッホや、ベルグソンがわかり、ロダンの「接吻」にいやな顔をしないところまで、一年間で教えこんでしまった。およそ青年学生時代に恋を語り合うと・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・正嘉元年大地震。同二年大風。同三年大飢饉。正元元年より二年にかけては大疫病流行し、「四季に亙つて已まず、万民既に大半に超えて死を招き了んぬ。日蓮世間の体を見て、粗一切経を勘ふるに、道理文証之を得了んぬ。終に止むなく勘文一通を造りなして、其の・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ 田舎へきて約半年ばかりは、東京のことが気にかかり東京の様子や変遷を知り進歩に遅れまいと、これつとめるのであるが、そのうちに田舎の自分に直接関係のある生活に心をひかれ、自分自身の生活の中に這入りこんで、麦の収穫の多寡や、村税の負担の軽重・・・ 黒島伝治 「田舎から東京を見る」
・・・ 以前に、自分が使っていた独楽がいいという自信がある健吉は、「阿呆云え、その独楽の方がえいんじゃがイ!」と、なぜだか弟に金を出して独楽を買ってやるのが惜しいような気がして云った。「ううむ。」 兄の云うことは何事でも信用する藤・・・ 黒島伝治 「二銭銅貨」
・・・彼は、大地震で、山が崩れてしまったような恐怖に打たれた。 湿った暗闇の中を、砂煙が濛々と渦巻いているのが感じられる。 あとから、小さい破片が、又、バラ/\、バラ/\ッと闇の中に落ちてきた。何が、どうなってしまったか、皆目分らなかった・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・網は御客自身打つ人もあるけれども先ずは網打が打って魚を獲るのです。といって魚を獲って活計を立てる漁師とは異う。客に魚を与えることを多くするより、客に網漁に出たという興味を与えるのが主です。ですから網打だの釣船頭だのというものは、洒落が分らな・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・海上の船から山中の庵へ米苞が連続して空中を飛んで行ってしまったり、紫宸殿を御手製地震でゆらゆらとさせて月卿雲客を驚かしたりなんどしたというのは活動写真映画として実に面白いが、元亨釈書などに出て来る景気の好い訳は、大衆文芸ではない大衆宗教で、・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・ されど、今のわたくし自身にとっては、死刑はなんでもないのである。 わたくしが、いかにしてかかる重罪をおかしたのであるか。その公判すら傍聴を禁止された今日にあっては、もとより、十分にこれをいうの自由はもたぬ。百年ののち、たれかあるい・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・を持っているのと同様に、もはや今では日本のプロレタリアートも自分自身の「旗日」を持っている! ところが、どうしても残念なことが一つあった。それは隣りの同志が実によく「われ/\の旗日」を知っていることである。……いや、そうでなかった。それ・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・すべて自信がもてない。ものをハッキリ決めれない、なぜか、そうきめるとそれが変になってしまうように思われた。 ……龍介は今暗がりへ身を寄せたとき、犬より劣っている自分を意識した。 三 龍介は歩きながら、やはり友だち・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
出典:青空文庫