・・・よって、その実費として、二百円送金すべし。その代り、百円分の薬を無代進呈する。 ……いきなり二百円を請求された支店長たちは、まるで水を浴びた想いに青く濡れた。六百円の保証金をつくるのさえ、精一杯だったのだ。それを、この上どこを叩いて二百・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・まえまえから胃腸が悪いと二ツ井戸の実費医院へ通い通いしていたが、こんどは尿に血がまじって小便するのにたっぷり二十分かかるなど、人にも言えなかった。前に怪しい病気に罹り、そのとき蝶子は「なんちう人やろ」と怒りながらも、まじないに、屋根瓦にへば・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・お金は、こんなにたくさん要りません。実費でわけてあげます。そのウィスキイは、私は誰にも飲ませたくないから、ここに隠してあるのです。」 主人は、憤激しているようなひどく興奮のていで、矢庭に座敷の畳をあげ、それから床板を起し、床下からウィス・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・けれども黄村先生は書生たちの経済力を考慮し直接に支那へ注文して下さることと相成った。実費十五円八十銭である。この機を逃がすならば少しの損をするゆえ早速に申し込もうと思う。大急ぎで十五円八十銭を送っていただきたいというような案配であった。その・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・或るところは無料で、或るところは親の収入に準じた実費で七歳までの子供を保護し、食事、沐浴、初等の社会的訓練を与えてくれるのである。乳児のある母には三時間毎に授乳時間を与えられる。朝子供をつれて出勤し、退け時まで、女医と保姆の手もとにある子に・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
出典:青空文庫